Spotify、Amazon Music、YouTube Music、Apple Music などの音楽サブスクリプション・サービス(以下サブスク)、いわゆる「定額聴き放題」は音楽の聴き方を大きく変えました。ここでは、そこでのジャズ鑑賞について考えてみます。
サブスクの登場(スポティファイが日本で一般サービスを始めたのが2016年11月)までは、ジャズは「アルバム主義」ともいうべきアルバム単位の鑑賞が常識で、紹介や評価もアルバムに対してでした。それまでもアルバムをバラしての1曲ごとのダウンロード販売はあったものの、多くはなく(しかも割高で、長時間の演奏がなかったりということもあってか)、ジャズの聴き方を変えることはありませんでした。しかし、サブスクの登場によって基本は1曲単位となり、その「アルバムしばり」はなくなりました。また聴取可能曲数も膨大で、ボックス・セットの収録曲、廃盤や入手困難盤までもが容易に1曲単位で聴けるようになりました。それまで、聴きたい1曲のためだけにCDを探して、購入していたのはなんだったのかと、がっかりしたり喜んだりですよね。
しかし、広くなんでも聴ける環境が提供された一方で、パーソネルなどのクレジットはなくなり、ライナーノーツも失われてしまいました。もちろん、それらがなくても音楽は音楽で楽しめるわけで、本来そういうものですが、ジャズにおいてはどんなメンバーがいつ録音した作品であるかというのが理解の大きな助けになることは、改めて言うまでもありません。つまり、その「情報」があれば、サブスクのジャズはもっともっと楽しめるのですが、サブスクはその利便性と情報をトレードオフしているので、それはいたしかたない……というわけではありません。
その情報はどこにあるのか?というと、ここからは宣伝にもなってしまいますが、(現在おそらく世界唯一の)「サブスク対応データベース」というべき電子書籍が、小学館スクウェアから刊行中なのです(ワタクシが選曲・解説しています)。それは『絶対名曲/プレイリスト・ウィズ・ライナーノーツ』シリーズ。その名のとおり、サブスクのプレイリストに解説とパーソネルをセットにした電子書籍です。かつての(解説つき)「コンピレーションCD」のサブスク版という感じですね。
プレイリストはSpotify、Amazon Music、YouTube Music、Apple Musicの主要4プラットフォームに対応しており、電子書籍の端末からそれら4つのプレイリストに直接アクセスし、「聴きながら解説を読む」ことができます。QRコードも掲載されており、スマホで聴きながらPCで読むということも可能です(お使いのプラットフォームでご利用ください。Spotifyは無料プランもご利用いただけます)。
シリーズは、2020年2月の『マイルス・デイヴィス絶対名曲20』から、現在まで全11巻がリリースされています。近刊の第9号からは「データ編」としてデータ提供に特化し、「100曲プレイリスト+100曲データ」という構成になっています。プレイリストの並び順にも工夫がありまして、単なるデータ集になっていないところにも気づいていただけるとうれしいです。
たとえば、最新刊の第11巻『チック・コリア絶対名曲100』は、チック・コリアのサイドマン時代から、最後となってしまったグループ「スパニッシュ・ハート・バンド」まで、主要楽曲100曲を「録音順」にリストにしています。音楽だけでなく情報も知ることで、チックの活動がよく理解され、より音楽を楽しめることと思います。また、データを追うだけでもさまざまな発見があることでしょう。「サブスク+データ」で、ジャズの聴き方はさらに大きく変わっていくのです。
小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz
文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』をシリーズ刊行中(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『ダン・ウーレット著 丸山京子訳/「最高の音」を探して ロン・カーターのジャズと人生』『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(ともにシンコーミュージック・エンタテイメント)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。