前回に引き続き、チック・コリアの足跡を振り返ります。チック・コリアはソロ・デビューしてからはずっと、つねに第一線で活動を続けてきましたが、同時代・同世代のジャズ・ミュージシャンと異なるスタンスをとってきた点がいくつかあります。そのひとつは、「過去を振り返る」こと。

たとえばマイルス・デイヴィス。「過去は振り返らず前進あるのみ」と、言ったかどうかはわかりませんが、マイルスにはつねにそんなイメージがつきまとっています。実際にマイルスが過去のグループのリユニオンを行なったのは、死去の直前の1回だけ。「これがジャズのジャズたるところ。マイルスはそれを体現した」と言ってみるのもかっこいいですよね。でも、過去を振り返ることも「ジャズ」のとても面白いところだと思います。チックはそれを体現しました。

チックの活動を振り返ると、その時々のグループによって音楽スタイルが明確に異なっていました。同じメンバーのグループで音楽スタイルが徐々に変化していくということはほとんどなく、スタイルが変わる時はグループを変えるという形でした。同じメンバーであっても「アコースティック・バンド」「エレクトリック・バンド」と、スタイルによってグループ名をわざわざ変えていたのがその端的な例でしょう。ということもあって、より明確に「リユニオン」が意識されるということもあるのですが、それにしてもチックは頻繁に「リユニオン」をくり返しました。


チック・コリア『ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・ソブス』(ソリッドステート)
演奏:チック・コリア(ピアノ)、ミロスラフ・ヴィトウス(ベース)、ロイ・ヘインズ(ドラムス)
録音:1968年3月

たとえば、1968年に録音された、チックの出世作といえる『ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・ソブス』。これは当時レギュラーで活動したグループではありませんが、このメンバーによるトリオでは、その後3枚のアルバムをリリースしています。最初のリユニオンは1981年の『トリオ・ミュージック』。アルバムだけでなく、その後ツアーも行ないライヴ盤『ライヴ・イン・ヨーロッパ』もリリースしました。さらに2001年には再び集結し、素晴らしい演奏をCDと映像で残しました(『ランデヴー・イン・ニューヨーク』後述)。

また、グループ「リターン・トゥ・フォーエヴァー」(以下RTF)も、第2期のメンバーを中心にリユニオン(アルバム+ツアー)を重ねました。

 RTF(第1期):1972年〜73年
 RTF(第2期):1973年〜76年
 RTF(第3期):1977年
 RTF(リユニオン):1982年『タッチストーン』(チック・コリア名義/1曲)
 RTF(リユニオン):2008年『リターンズ〜リユニオン・ライヴ』『ライヴ・アット・モントルー 2008(DVD)』
 RTF(リユニオン):2011年『フォーエヴァー』『ザ・ミュージシャン』
 RTF(リユニオン):2012年『マザーシップ・リターンズ(CD+DVD)』

そのほかにも、「デュオ・ウィズ・ハービー・ハンコック」や「チック・コリア・エレクトリック・バンド」なども、ライヴやアルバムでリユニオンを行なっています。しかし、回顧であっても、まったく懐古ではないところがチックの素晴らしいところ。昔と同じ演奏は「できない」、同じ演奏には「ならない」ところがジャズの面白さですから、つねに先端を突っ走ってきたチックのような人こそ、年月が経つほどリユニオンは大きな意味をもってくるといえます。これはチックと仲間たちの進歩の度合いを知る「定点観測」なのです。

この考えを集大成したのが、2001年の60歳(キャリア40年)と、2011年の70歳の節目に行なわれた連続ライヴ企画とその作品化。いずれも会場はニューヨークのジャズクラブ「ブルーノート」での3週間公演で、前者は2枚組CDと7時間超のDVDで、後者は3枚組CDとブルーレイでリリースされましたが、内容はほとんどが「リユニオンもの」なのです。2001年はアコースティックのみでしたが、2011年はエレクトリックも含む10グループで、しかもソロ・デビュー前のマイルス・デイヴィス時代も取り上げるという「完全回顧」プログラムとなっています。チックはおそらく80歳の節目にも同様の企画を考えていたことでしょうが、それが叶わなくなってしまったのはじつに残念です。


チック・コリア『ランデヴー・イン・ニューヨーク』(ストレッチ)
演奏:ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・ソブス・トリオ、スリー・カルテッツ・バンド、チック・コリア&ボビー・マクファーリン、チック・コリア・アコースティック・バンドほか
録音:2001年12月
9バンドが参加したCD2枚組アルバム。DVDボックスセットは全バンド各1枚の演奏が収録された。

チック・コリア『ザ・ミュージシャン(ライヴ・アット・ニューヨーク・ブルーノート)』(コンコード)
演奏:リターン・トゥ・フォーエヴァー・アンプラグド、ファイヴ・ピース・バンド、チック・コリア&ハービー・ハンコック、チック・コリア&ゲイリー・バートン、チック・コリア・エレクトリック・バンドほか
録音:2011年12月
10バンドが参加したCD3枚組アルバム。

チックの活躍を見れば、「つねに前進あるのみ」だけがジャズではないことがわかります。たとえば1970年代と2010年代のRTFの違いにこそ、ジャズの面白さが表れているのです。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』をシリーズ刊行中(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『ダン・ウーレット著 丸山京子訳/「最高の音」を探して ロン・カーターのジャズと人生』『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(ともにシンコーミュージック・エンタテイメント)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。

 

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