新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、現在テレワーク生活中の方も多いと思うが、仕事環境だけでなく、「趣味の音楽」の環境も激変中である。首都圏ではライヴハウスの休業だけでなく、ディスクユニオンやタワーレコードなどのレコード/CD店も休業中(4月14日現在/通販は営業中)で、音楽ファンとしては非常に寂しい限り。だが、店舗が開いていたらきっと外出してしまうので、この英断は感謝すべきことでもある。ならば店舗めぐりは状況が落ちついてからの楽しみにとっておいて、いまは「サブスクリプション(=聴き放題)サービス」(以下サブスク)に頼るしかないと多くの音楽ファンは思っていることだろう。私もそのひとり(なおここでは、サブスクは筆者が利用しているSpotify 、音楽ジャンルはジャズで話を進める。ご自身の環境に合わせて適宜読み替えていただきたい)。
さて、テレワーク生活もはや数週間。自宅環境はそもそも仕事環境ではないことはいうまでもないが、それにしてもこの閉塞感はなんだ。うるさいテレビを消すことはもちろんだが、BGMを流して気分を上げないとどうにも仕事が進まない。だが、CDやLPを選んでかけて、そしてまたかけ替えるのはめんどうだ。そう、こここそサブスクの出番ではないか。今こそ「数千万曲聴き放題」を試すときだと、Spotify を立ち上げて、検索窓に「ジャズ」と入れてプレイリストを表示させてみる。まずは困る。いったいいくつあるのだ。しかもどれも似たような短いタイトルばかりで、区別がつかない。とりあえず一番上にあった「ジャズ・カフェ」を押してみた。これは収録140曲で9時間超というものだが、音楽はタイトルどおり喫茶店のBGMそのもので、なんの主張もない「音」でしかない。いやいや、欲しいのはもっと気分を高揚させてくれるものなんだ。で、タイトルを頼りに探してみるものの、開いては1曲聴いて閉じ、開いては1曲聴いて閉じのくり返しに。ああ、私は何をやっているのだ、これでは仕事にならないではないか。
そうこうしているうちにたどりついたのが『BLUE GIANT SUPREME』というプレイリスト。これは『ビッグコミック』(小学館)連載中の『BLUE GIANT SUPREME』とSpotifyのコラボによるプレイリストで、44曲6時間弱。これならいけるかもしれない。1曲目は大好きなジョン・コルトレーン(サックス)の「マイ・フェイヴァリット・シングス」だし。ただ聴いてみるとこれは私が知っているヴァージョンとは違う。それよりはるかにノリがいいではないか。これで気分は上がるけれど、この音源は何なんだと気になってしょうがない。バックのミュージシャンは誰なんだ? チック・コリアの「スペイン」もいいね。でもこのヴァージョンも初めて聴くなあ、いつの録音なんだろう? ……これではまた仕事にならないではないか。結局プレイリスト探索はやめて、自分で作ったプレイリストをチョイス。というわけでBGMは、知っている曲ばかり。
サブスクの弱点を克服する画期的電子書籍
サブスク数千万曲のコレクションからは当然新しい出会いはあっても、その先のさらなるおつきあいのためには、情報をゲットしなければならず、そのための作業が必要になってくる。つまり音楽ファンであればあるほど、いい出会いが多いほど、音楽は仕事のジャマをしにかかるというわけだ。音楽ファンは「聞き流す」ことができない人種ゆえ、新鮮なプレイリストほどBGMにできないのである。というわけで、音楽ファンにとってサブスクはBGM的な使用や「聴き放題」という「コスパ」ではなく、「巨大ライブラリー」とそれを「掘る」ことにもっとも大きな価値があるということを再認識した次第。音楽聴くなら仕事のあとでしっかり聴く。これがテレワーク中のサブスクの正しい使い方なのだ。
先ほど仕事の手を止めさせたコルトレーンにしろ、チック・コリアにしろ、表示されるのはアーティスト名と曲名だけ。だがその場に詳しい説明さえあればテレワークの快適なBGMになったかもしれない。その、「情報不足」がサブスクの最大の弱点なのだが、それを補った画期的なメディアが先般登場した。それは『プレイリスト・ウイズ・ライナーノーツ』(小学館スクウェア)シリーズ。その名の通り、テーマに沿った20曲のプレイリストと詳細なデータと解説がセットになった電子書籍で、誌面のリンクをクリックするだけでサブスク音源に即座にアクセスすることができる。対応プラットフォームはSpotify、Amazon Music、Apple Music、Google Play Musicの4つ(いずれかのサブスクと契約が必要です)。
ラインナップは、ジャズの帝王、マイルス・デイヴィスの名曲を集めた『プレイリスト・ウィズ・ライナーノーツ001/マイルス・デイヴィス絶対名曲20』が現在発売中。4月15日には第2弾『プレイリスト・ウィズ・ライナーノーツ002/ビル・エヴァンス絶対名曲20』(池上信次著)が発売された。来月以降には『ハービー・ハンコック』『ボサ・ノヴァ』『令和のジャズ』などの続刊が予定されている。いずれも名演中の名演20曲を厳選して解説。耳は引っ張られても、気は散らない。これらならば「安心して」テレワークのBGMとして聴くことができるだろう。