伝統的なアメリカ服飾文化の再解釈を感じさせるニューヨークのブランドが製作したのは、まるで拳銃などを収納するホルスターのような意匠のベスト。これならばスマートフォンなどを安心して携帯することができる。
携帯電話は、もはや日常生活で欠かすことのできない道具だ。昔ながらの携帯電話、いわゆるガラケーならばポケットにも収まりやすい大きさだが、大きな液晶画面が備わったスマートフォンの場合、ポケットに収まらない大きさの製品も多い。大きなポケットが付いた上着を着ている場合は、スマートフォンの収納場所にも困ることはないかもしれないが、シャツ一枚で出掛けようとした場合、スマートフォンを入れておく場所に困ることがあるだろう。そんなときに最適なバッグ兼ベストを見付けた。『エンジニアド ガーメンツ』というブランドの「ショルダーベスト」だ。アメリカ在住の日本人デザイナー、鈴木大器さん(58歳)が1999年に立ち上げたブランドで、ニューヨークを中心に、ほとんどの商品をアメリカで製造している。どの商品もアメリカ的な味わいに日本人ならではの繊細な感覚が加えられ、アメリカや日本だけでなく、世界中で注目を浴びているブランドだ。
ホルスターがアイディアの源
「着こなしのアクセントにもなり、なおかつ機能的な道具はベストなのか、バッグなのかをずっと考えていましたが、その両方を満たすものがホルスターみたいなものではないかと思い至りました。昔、映画やドラマでこのホルスターの見え方がカッコよかったので、その感じのまま、見えても洒落て見えるようにデザインしました」
このベストを考案したきっかけを鈴木さんはこう話す。鈴木さんが最初にこの製品をつくったのは実は数年前。色をたくさん使った作品を発表した時期で、あくまでも着こなしのアクセントになればとこのベストを製作、まだ使い勝手や機能性を突き詰めたものではなかった。それでもこの製品は好評で、その製品を実際に使っている人を見掛けたことがきっかけとなり、再び復刻させた。
「バッグそのものの形を改良し、ストラップの着脱を簡単に、ジャケットの下に着用しても取り外しが容易にできるように改善しました。機能的にも外に立体ポケット、内側にパッチポケットと、すぐに取り出せるものや、貴重品とのすみ分けもできるように工夫しました。この手の製品は使いながらどんどん工夫していく過程が面白くもあり、難しい点でもあるのではないかと思います」と鈴木さん。
ホルスターのように左脇の下に吊り下げるように身に着けられるので、安心してスマートフォンを収納しておくことができるし、電話がかかってきても素早く取り出すことができる。機能的なポケットも付いているので、電話以外にも財布やカードケース、眼鏡など、身の回りの必需品を収納することができる。春夏の暖かい季節にはバッグを手持ちせずに出掛けることもできるし、洋服を着替えた場合でも必需品をこのベストに収納しておけば、忘れ物を減らすことにもなるだろう。
文/小暮昌弘 昭和32年生まれ。法政大学卒業。婦人画報社(現・ハースト婦人画報社)で『メンズクラブ』の編集長を務めた後、フリー編集者として活動中。
撮影/稲田美嗣 スタイリング/中村知香良
※この記事は『サライ』本誌2021年2月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。