カジュアルなスタイルでも革靴を選ぶと、お洒落度が何倍もアップすることがある。今回紹介する革靴は’70年代にアメリカで誕生し、以来ロングセラーを続けるモデル。時代を超えた普遍性を備えたデザインが新鮮に映る。
’80年代後半から’90年代にかけて流行した「渋カジ」(渋谷カジュアルの略)というファッションを覚えているだろうか。フライトジャケット、ブレザー、ジーンズといった“アメカジ”アイテムと並んで注目を浴びたのが、『ティンバーランド』のモカシンシューズだ。当時の流行を追った『渋カジが、わたしを作った。』(講談社刊)で、著者でジャーナリストの増田海治郎さんは、「渋カジの足元の代表選手は間違いなく『ティンバーランド』だった」と書く。
この靴の正式名称は「スリーアイ クラシックラグ」で、モデル名はこの靴の3つのアイレット( 靴紐を通す穴のデザイン)に由来すると思われる。紺色のブレザーにチノパンやジーンズを合わせ、足元にこのモカシンシューズを履く。そんな格好を楽しむ若者たちが日本中で見られた。
熟練の職人が手で縫い上げる
アメリカで生まれた『ティンバーランド』は、創業者ネイサン・シュワーツがボストンで1918年に開業した靴店に始まる。同ブランドの靴では、世界初の完全防水レザーブーツとして1973年に誕生した「6インチプレミアムブーツ」(通称イエローブーツ)が有名だが、今回紹介する「スリーアイ クラシックラグ」が生まれたのは1978年で、ブーツ開発で培った技術を生かし、日常のあらゆるシーンにおいて人々の足元を守りたいという創業者の思いからデザインされた。現在でもロングセラーを続ける、ブランドの象徴的な靴のひとつだ。
最大の特徴は「モカシン」製法だろう。靴底から側面まで、オイルド加工された一枚の牛革で包み、甲の部分にU字型のレザーパーツを被せて、熟練した職人が手縫いで仕上げる。そこに使われる糸は、耐久性の高い蠟引きされたナイロン製。手縫いの縫製と相まって機械縫いの靴に比べて最大で3倍の耐久性を持つと謳う。油分を含む革は撥水効果もあり、多少の雨なら弾いてくれる。加えて、一本のレザーシューレース(靴紐)で繫ぐ「360°レーシング・システム」が、靴全体のフィット感を向上させる。さらに裏側のアウトソールは分厚いラバー素材で、優れたクッション性を備え、アスファルトでも滑りにくく、なおかつ減りにくい。ソールのアメ色も特徴的で、これは看板商品のイエローブーツと同じ仕様のものが使われている。街中からアウトドアまで多くの場面で履ける。
「靴の内側まで柔らかな革が貼られ、足馴染みがよいのもこの靴の特徴です。アッパー(甲革)の素材も柔軟性が高いので、脱ぎ履きもしやすい。履き込むほどに履く人の足に馴染んでくれます」
そう語るのは、同ブランドのセールスエグゼクティブを務める大木文太さん( 29 歳)。
自分の足の分身のように育てていくことができる革靴。その誕生以来、40年以上にわたって多くの人に愛用され、ロングセラーを続ける理由がここにもあるのだろう。
文/小暮昌弘(こぐれ・まさひろ) 昭和32年生まれ。法政大学卒業。婦人画報社(現・ハースト婦人画報社)で『メンズクラブ』の編集長を務めた後、フリー編集者として活動中。
撮影/稲田美嗣 スタイリング/中村知香良
※この記事は『サライ』本誌2021年10月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。