文/満尾正
新型コロナウイルス感染症など、さまざまな病気に負けないための「免疫力」は、日々の食事や生活習慣の改善によって、大幅に高めることができるそうです。しかし、巷に溢れる健康や免疫力に関する知識は刻一刻とアップデートされ、間違った情報や古びてしまったものも少なくありません。コロナ禍の今、本当に現代人が知っておくべき知識とは何でしょうか。著書『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ究極の「健康資産」の作り方』が話題の満尾正医師が解説します。
人類が開けてはいけないパンドラの箱は2つあったと、私は感じています。
1つが原子力。残念ながら開けられてしまい、日本は被爆国となりました。
もう1つが遺伝子操作。これもまた、開けられてしまいました。すでに中国で、遺伝子操作をしたデザイナーベビーが誕生しています。
私のクリニックでは、最先端の医学的知見をもとに、抗加齢医療、予防医療を行っています。しかし、およそ私は遺伝子解析には関心がありません。
遺伝子解析については一時期、国内外でいろいろな商売が生まれました。でも、まだまだわからないことが多く、どれもうまくいっていないようです。
いずれ、より明確になると思いますが「だから、なに?」と私は思っています。
アメリカの女優アンジェリーナ・ジョリーが、遺伝性の乳がんになることを恐れて、健康な乳房を切除したことは話題になりました。
しかし、本当に乳がんになるかどうか誰もわかりません。100%ではなく、かなり曖昧なものです。それよりも、食生活の見直しなどでリスクを減らしていく道を選ぶべきではなかったかと感じています。
私たちはいずれ死を迎えます。
そのときまで最高の体調で生きていくことこそ重要なのであって、遺伝子解析で病気になる可能性がほんの少し高いとわかった臓器を傷つけるということは、その目的に反しているのではないでしょうか。
遺伝子解析とそれによる手術は、「病気になるのが怖いから死んでしまおう」というブラックジョークに近い発想だと思えるのです。
そもそも、医学データの世界では、遺伝子そのものが決めるパートは2~3割にすぎず、エピジェネティックが7~8割を決めると考えられています。エピジェネティックとは、遺伝子を取り巻く環境、つまり食事を含めた生活習慣によって決まることです。
人間ドックでは、家族の既往歴について質問されることがありますね。
あれは、やはり家系的に引き継がれる疾患があるからです。たとえば、親が糖尿病であれば、子どもも糖尿病にかかりやすいといったことがあります。
しかし、それもただ遺伝子だけの問題ではなく、むしろ、家族として同じようなものを食べてきた生活習慣の要素のほうが大きいと私は考えています。
自分の「傾向」について知るのは大事なことですが、ただ、それだけに頼ってはいけません。「両親が心臓を悪くしたから自分も心臓にだけは気をつけなくては」と思っていて、思ってもみなかった部位のがんにかかるということもあるのです。
今、自分の体がどうなっているかを正しく知り、どんな栄養素が足りていないのか、どんなものを余計に摂っているのかを把握することこそ、知的な現代人に求められる健康管理の形です。
満尾正(みつお・ただし)/米国先端医療学会理事、医学博士。1957年横浜生まれ。北海道大学医学部卒業後、内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療の現場などに従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、日本で初めてのアンチエイジング専門病院「満尾クリニック」を開設。米国アンチエイジング学会(A4M)認定医(日本人初)、米国先端医療学会(ACAM)キレーション治療認定医の資格を併せ持つ、唯一の日本人医師。著書に『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ「究極の健康資産」の作り方』(小学館)など。