取材・文/坂口鈴香
今回は、高齢の親を持つ「息子」問題について考えている。
前編では、同居の有無にかかわらず、娘や嫁は高齢の親のささいな変化をすぐに察知できるのに、息子はなぜ親の異変に気がつかないのか、親の老いを認めたがらないのかについて、首都圏でサ高住やグループホームなどを運営する事業所の幹部、並木政彦さん(仮名)にお話を伺った。
「そう言われても、どうすればいいのかわからない」という息子も多いだろう。そこで、並木さんに高齢の親を持つ息子が心がけておきたいポイントを挙げてもらった。
(前編はこちら)
高齢の親を持つ息子に心がけておいてほしいこと
娘さんは親の趣味や性格を把握していることが多いので、異変を察知しやすいんです。息子さんも、親に小さな変化がないか、意識して観察してほしいですね。特に離れて暮らしている場合は、帰省したときに、部屋が汚れていないか、いつも行っていた趣味の集まりなどを辞めていないか、それとなくチェックしてみてください。
自分の観察力に自信がないなら、女きょうだいや奥さん、お子さん(孫)の目で見てもらうようお願いするのもよいでしょう。お孫さんの言うことなら素直に聞くという方も多いです。いずれにしても、息子さんの方が娘さんより親の変化に気がつきにくいということを自覚しておくだけでも違ってくると思います。
そして介護がまだ必要ではないうちから、「地域包括支援センター」に親の情報を伝えておくこともおすすめします。親の住む地域を担当している地域包括支援センターを調べて、一度出向いておくといいですね。いざというときに、話がスムーズに進みます。また、地域の民生委員や近所の人にも挨拶をしておいて、気がついたことがあれば連絡をしてもらうようにお願いしておきましょう。
母と息子の関係性を今一度見直そう
それからこれは根源的な問題になりますが、この際息子さんとお母さんとの関係性についても見直しをしてほしいと思います。
施設のスタッフに「息子が会いに来てくれない」といつも嘆いているお母さんがいるんです。でも息子さんがいらっしゃると、「私は元気だから、心配しないでいいわよ」と言って明るくふるまう。そしてまた翌日には「息子が来てくれない」と嘆く……。
こうした例は少なくありません。親の側も、高齢になってからでは遅い。早いうちから息子さんと適度な距離感を保って、ときには突き放してみることも必要だと思います。
また、施設に入居したあとに息子さんと疎遠になる方もいます。両親がそろっていたころは、ちょくちょく様子を見に行っていた息子さんが、お父さんが亡くなってお母さんだけになると、逆にあまり顔を見に行かなくなる、という例も少なくないんです。
親が二人とも健在なうちは、親子の関係性が中和されていたのでしょう。それがどちらか一人になると、1対1で向き合うことになり関係が濃密になる。そのため、距離感がうまく取れなくなったのではないかと思います。これが在宅介護だと、一歩間違えば虐待にもつながりかねません。
身もふたもないですが、施設のスタッフたちは「持つべきものは娘」と言っています。もちろん、頭が下がるほど親孝行な息子さんもいらっしゃいます。どちらか両極端なのが息子さんの特徴だと感じます。
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「息子だから、娘だから」と断定するつもりはないが、長年の経験から体感する一般的な傾向としてとらえてほしいと並木さんはいう。そして親のことをよく知っていると自負する娘であっても、親の変化には注意を払ってほしいと付け加えた。
親の生活にみられる心身の状況低下のサインについては、「人生の後半戦は、孤独を恐れず、孤独を楽しむ コロナ時代 孤独の処方箋(https://serai.jp/living/1003073)」で紹介した、公認心理師・臨床心理士の高橋幸市氏のアドバイスを参考にしてほしい。
「今まで普通にできていたことができなくなるのは、機能や意欲の低下が考えられます。『後片付けができない』『食べることが楽しみにならない』『入浴しない』『着替えなくなる』『身だしなみに気がいかない』『怒りっぽい』など、生活に支障をきたすようになれば、医療機関への受診も考えてください」
それから、男性にお願いしておきたい。娘の方がよく気がつくからと、姉妹に親の介護を押しつけることのないようにしてほしい。
兄弟を持つ娘さんからよく聞く愚痴がある。「兄や弟は、長男というだけで小さいころから大事にされてきた。私はいずれ嫁ぐんだからと、明らかに兄や弟とは差をつけられて育てられてきた。それが今、介護するのは私ばかり」と。
「姉妹の不満に気がつけるくらいなら、親の変化にも気がつけていたよ」と 自嘲する男性の声が聞こえてきそうだが。
取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。