室町時代の豆腐田楽にルーツを持ち江戸時代にはファストフードとして庶民に親しまれてきた「おでん」。今も昔も暖簾をくぐると“だし”の香がふわり漂う──そんな酒場で気取らぬ一杯を。
種それぞれでだしを調整。3代目の独創が光る

宮崎県の南西部、鹿児島県と接する都城市は独自の“おでん文化”が息づく。市内にはおでんを出す店が数十軒はあるとされる。食材に豚なんこつや「おやし」(大豆もやし)などが使われ地域性を見せるが“都城おでん”としての味の定義はとくになく、各店が独自の工夫で競っている。

その中で、ひときわ個性豊かなおでんを提供するのが『雨風(あめかぜ)』だ。昭和29年(1954)に創業、現在は3代目の野村英樹さん(55歳)がおでん鍋を守る。カウンターに仕込まれた鍋は食材ごとに金枠が独立し、それぞれのだしの濃度が変えてある。その理由を野村さんはこう語る。
「葉野菜は塩味を薄く、大根は約5日かけて芯まで煮含めるなど、食材に合わせて最適な仕上がりになるように調理しています」
創業以来のだしを注ぎ足しで使う。利尻昆布とまぐろ節、塩で取っただしは、色は濃いが醬油はいっさい使わない。
「食材から出た旨みが凝縮されてこの色になっています。注ぎ足しで使うのは、ゼロからつくるよりは楽ですし味がブレないからです」
ひとつひとつのおでん種が一品料理のよう丁寧に仕上げられるのも特徴で、ロールキャベツの中身は、牛肉ときのこのイタリアン仕立て。食べた瞬間に、ラグーソースの味に驚くが、それが70年の歴史を積み重ねただしと相まって、なんとも奥深い味わいだ。

雨風
宮崎県都城市上町5-14
電話:0986・22・2398
営業時間:18時〜23時
定休日:日曜、祝休日
交通:JR日豊本線西都城駅より徒歩約7分
取材・文/宇野正樹 撮影/松隈直樹

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