取材・文/沢木文

親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970年代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。

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非正規雇用の雑用係はつぶしが利かない

娘の人生がハッキリと暗転したのは、この会社の契約社員になってからだという。後半は、父親の克夫さんがメインで話す。

【その1はこちら

「娘が契約で入った広告制作会社は、積極的に正社員登用をしていた。妻を通じて“正社員になれ”と何度も伝えていたのに、重い腰を上げたのは36歳の時だった。判断されるというのは相当なストレスだったんだろうね。本人は勉強して挑んだけれど、登用試験には不合格だった。かなり落ち込んで泣いていたので、私と妻と娘のマンションに行って励ました。私が“このまま仕事を辞めて結婚すればいいじゃないか”と言ったら、烈火のごとく怒った」

逃げ場を求めるように結婚しても、自分の望む生活ができないことは、娘が一番よくわかっていた。

契約社員なら勤務を続けてもいい。しかし正社員にはしない。後から入ってきた後輩がどんどん正社員になっていくのを指をくわえて見ていたのか。

「これは、私の憶測ですが、娘はどうしたらいいかわからなかったんだと思う。若いころに“気が利く”とか“利発だ”などとチヤホヤされて、人のサポートをするのが仕事だったんだと思う。例えば、誰かがタバコを持ったら、灰皿とマッチを持ってくるとか、会議資料をキレイにコピーするとか、電話応対を朗らかにするとか、ね。そういう女性が“仕事がデキる”と言われた時代は確かにあった。でも、今はそういうことは全く求められなくなった。“察するスキル”しか磨かなかった娘は、単なる雑用係。愛想がいいだけの女に誰も仕事を任せないし、本人もアイディアがあるわけではない。言われたことを真面目にやっていて、上から可愛がられるだけでは、メシは食えないんですよ」

ただの雑用係はつぶしが利かない。これは、住宅メーカーで、自分を律し、競争に勝ち抜いてきた克夫さんの本音だろう。

「本人はキャリア女性になりたかったんだろうな。キレイなオフィスで颯爽と働いてね。でもそれは幻想だよ。ウチの会社もそうだけれど、仕事がデキる信頼できる人は、男女問わず、条件をきっちり詰めて、自分も仕事をして、相手にも仕事をさせる。人間的に“ひどい奴”だと思っても、仕事はそいつに任せたい。馴れ合いじゃないんだよ」

「これが最後のチャンスだよ」と言われた正社員登用試験に落ちる。次ページに続きます】

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