
実にありがたいことに、人生をやり直せる時代になりました。人生百年時代となった今では、定年退職は、第二の人生のスタートのようにいわれています。そうは言っても「どこまでも続く人生」と思っていた、若き時とは違います。はっきりと意識しはじめるのは「人生の終焉」。躓いてしまえば、失う物も多いもの。
溢れる情報に惑わされず、巧妙で狡猾な罠を見破り、第二の人生を生きなければなりません。しかし、自分だけの知識や経験だけでは心許ないところもあります。ならば、賢者の知恵を頼みとするのも一つの方法ではないでしょうか?
そうした賢者が残した一つの言葉をご紹介します。今回の座右の銘にしたい言葉は「胆大心小」(たんだいしんしょう) です。
「胆大心小」の意味
「胆大心小」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「大胆で、かつ細心であること。度胸は大きく、注意は細かく払うべきこと」とあります。「胆大」は度胸があること、大胆であることを意味します。物事に臆することなく、勇気を持って行動する姿勢を表しています。
一方、「心小」は細やかな心配りや慎重さを表します。些細なことにも気を配り、丁寧に物事を進める態度を指しているのです。
つまり、この言葉は「大胆に行動しながらも、細部には細心の注意を払う」という、一見相反するような二つの要素を併せ持つことの大切さを説いています。
私たちの人生を振り返ってみると、大きな決断には勇気が必要でした。転職、起業、子育て、介護…様々な場面で思い切った選択をしてきたはずです。しかし同時に、家族への配慮や健康管理など、日々の小さな気配りも欠かせませんでした。
「胆大心小」は、この両立こそが人生を豊かにする秘訣だと教えてくれる言葉なのです。
「胆大心小」の由来
「胆大心小」の出典は、中国の古い歴史書『旧唐書』(くとうじょ)にある「孫思邈伝」(そんしばくでん)にある「胆は大ならんことを欲し、心は小ならんことを欲す」という記述に由来します。孫思邈は、優れた医者として、大きな治療方針を堂々と進めながら、患者の小さな症状まで丁寧に診察した人物。まさに胆大心小の体現者です。
「小心」というと、日本では「気が小さい」というネガティブな意味で捉えられがちですが、本来は「細やかな配慮ができる」というポジティブな意味合いを含んでいるのです。

「胆大心小」を座右の銘としてスピーチするなら
スピーチで紹介する際には、言葉の意味を簡潔に説明し、なぜその言葉を選んだのか、ご自身の経験と結びつけて語ること。抽象的な説明だけでなく、具体的なエピソードがあると聞き手の心に届きます。以下に「胆大心小」を取り入れたスピーチの例をあげます。
人生後半を豊かに生きるためのスピーチ例
最近、人生の後半戦をどう過ごそうかと思いを巡らせる中で、ある言葉を座右の銘として心に留めるようになりました。それは、「胆大心小」という言葉です。
ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、これは「度胸は大きく大胆に持ちつつ、細やかな気配りや慎重さも忘れない」という意味の四字熟語です。元々は、中国の名医が説いた心構えだといわれています。
正直に申し上げますと、若い頃の私は「胆大」ばかりで、勢いで突き進んで失敗することもしばしばでした。逆に、年齢を重ねてからは、失敗を恐れるあまり「心小」になりすぎて、新しい一歩を踏み出せない自分にもどかしさを感じることもありました。
しかし、この言葉に出会って気付かされたのです。大胆さと繊細さは、どちらか一つを選ぶものではなく、両方を持って初めて人生が豊かになるのだと。
これからの私は、新しい趣味や地域活動には「胆大」に、つまり恐れずにチャレンジしていこうと思います。一方で、人との関わりや日々の健康管理には「心小」に、つまり細やかな配慮を忘れずに丁寧に過ごしていきたい。そう願っております。
最後に
「胆大心小」は、声高に自分を飾る言葉ではありません。むしろ、静かに背中を押してくれる言葉です。
サライ世代は、経験があるぶん慎重になり、同時に「もう一度、何かを始めたい」という火種も抱えています。そんな時期に、「大胆に構え、細心に進める」という座右の銘は、挑戦を「無謀」にせず、慎重さを「臆病」で終わらせないものとなるでしょう。
●執筆/武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com











