文/石川真禧照(自動車生活探険家)
「ビートル」「ゴルフ」という名車を生み出し、いまやポルシェやアウディを傘下に抱え、世界一の販売数を誇るフォルクスワーゲン。その最新車は、大きすぎず運転しやすいバランスの良いSUVだ。
最近、SUV(多目的スポーツ車)が人気を集めている。エンジン部、客室、荷室が明確に区別されているセダンや、屋根が低く軽快でスタイル重視のクーペではなく、形はクーペのように流麗だが最低地上高が高いのがSUVである。室内・荷室が広く、ちょっとした轍や悪路でもなんなく走破でき、高速道路や峠道でも安定した走行を楽しめる。
当然、自動車メーカーもその人気にあてこんだ車を次々と新型車として発表する。ロールスロイスやランボルギーニ、ポルシェといった超高級車から、メルセデス、BMW、アウディといったドイツ車勢、日本の軽自動車まで、さまざまなSUVが発売されている。
「ゴルフ」サイズのSUV
ドイツのフォルクスワーゲン(VW)は、これまで小さめのSUV「T‐クロス」と、やや大きめのSUV「ティグアン」を発売してきた。しかしSUV市場の75%を占める全長4.2~4.3mクラスの車がなかった。乗用車ならば「ゴルフ」に相当するサイズだ。大きすぎず、運転しやすい。“ちょうどいい大きさのSUV”を望む、VWファンは多かった。
SUVの主戦場に、今回VWが満を持して投入した新型のSUVが、「T‐Roc」である。「Roc」は、英語の「ROCK」に由来する。SUV市場をROCKさせる(揺り動かす)という意味がこめられているという。
世界の自動車メーカーが矢継ぎ早に新型のSUVを発売するなかで、長く沈黙を守ってきたかに見えたVW社。各社のSUVを研究しつくして登場したT‐Rocとは、いかなるSUVなのか。
街で運転しやすい小型サイズ。長距離走行でも力強い
この夏、上陸したばかりのT‐Rocには、これまでのVW車にはない華やかさが感じられる。車体の大きさは歴代の日本でもっとも売れている輸入車「ゴルフ」とほぼ同じ。日本の道での取りまわしの良さは実証済みだ。車体の形状は他のVW車と一線を画し、独自のデザインがほどこされている。一見クーペのように車体が低く見えるが、全高は1590mmもあり、室内も広々としているのだ。
エンジンは排気量2Lのディーゼルターボ。日本の厳しい排出ガス規制に合格した最新型である。停車時のエンジン音や振動は抑えられており、低回転域からの加速も2Lスポーツセダン並みになめらかだ。自動ブレーキなどの先進
安全装備が標準装備されている。
VWは、1950年代に「ビートル」というリアエンジン車で、’70年代には「ゴルフ」という前輪駆動のハッチバック車で、それぞれ世界の大衆車市場を席巻した実績がある。フォルクス(大衆)・ワーゲン(自動車)という社名に恥じない車づくりを持続してきたメーカーの心意気が、新型SUV T‐Rocにも感じられる。はたして今後のSUV市場で3度目の世界制覇を果たせるか。
フォルクスワーゲン/T-Roc TDIスポーツ
全長×全幅×全高:4240×1825×1590mm
ホイールベース:2590mm
車両重量:1430kg
エンジン:直列4気筒DOHCディーゼルターボ/1968cc
最高出力:150PS/3500~4000rpm
最大トルク:34.7kg-m/1750~3000rpm
駆動方式:前輪駆動
燃料消費率:18.km/L(WLTCモード)
使用燃料:軽油 50L
ミッション形式7速セミAT
サスペンション前:ストラット/後:トレーリングアーム
ブレーキ形式前:ベンチレーテッドディスク/後:ディスク
乗車定員:5名
車両価格:419万9000円(消費税込み)
問い合わせ先:フォルクスワーゲン 0120・993・199
文/石川真禧照(自動車生活探険家)
撮影/佐藤靖彦
※この記事は『サライ』本誌2020年10月号より転載しました。