「もっとも謹慎すべきは全盛期である」(夏目漱石)【漱石と明治人のことば74】

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今年2017年は明治の文豪・夏目漱石の生誕150 年。漱石やその周辺、近代日本の出発点となる明治という時代を呼吸した人びとのことばを、一日一語、紹介していきます。

【今日のことば】
「吾人(ごじん)の生涯中もっとも謹慎すべきは全盛の時代に存す」
--夏目漱石

明治32年(1899)12月11日付で、夏目漱石が高浜虚子あてに書いた手紙の中の一節。言い換えれば、「得意の絶頂でこそ身を慎め」ということだろう。「吾人」は、われわれ、われらの意味。

この頃、高浜虚子は、病床の正岡子規に代わって文芸俳句雑誌『ホトトギス』を運営し、なかなかの好評を得ていた。ところが、発行日の遅れが続き、中身もともすると仲間内の楽屋落ちのようなネタが顔を覗かせたりしていた。

一方の漱石はまだ作家デビューはしておらず、熊本の第五高等学校で英語教師をつとめている。虚子ともさほど親しい間柄ではない。

それでも、親友・正岡子規のためという思いもあり、漱石は、

「今は『ホトトギス』全盛の時代なり。しかし--」

と前置きし、ここに挙げたことばを記し、「有頂天になっていると足元を救われるぞ!」とばかり、あえて高浜虚子を叱咤激励したのである。

何かものごとがうまく運ぶと、人間というのは、つい調子に乗りすぎてしまいがち。そういうことでは危うい。傲慢にならず、謙虚さを忘れず、一歩一歩進んでいくべきだ。漱石はそう釘を刺すのである。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。

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