夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。木曜日は「旅行」をテーマに、パラダイス山元さんが執筆します。

文/パラダイス山元(ミュージシャン・エッセイスト)

小さい頃、憧れの職業といったら、建築設計士でした。

赤煉瓦の愛称で知られる、生まれ故郷・札幌の代表的な観光名所である北海道庁や、時計台、市内中心部の公園の中に佇む豊平館(ほうへいかん)など、日本でありながら、アメリカンバロック様式の建築が身近にあったことで、いつまでも愛され、残る建築のデザイン、設計という仕事に興味が湧きました。小学校の卒業文集で、将来の夢は堂々と「設計技師」と書いていました。あくまでも夢ですからね。

中学生くらいになると、特別憧れの職業というものはありませんでした。

しいて言えば、ミュージシャン。何十人もの大所帯のビッグバンドで、チャカポコチャカポコとフロントでマンボのリズムを刻み「アーーーッ、うっ!」と叫ぶパーカッションプレイヤー。まぁ、それは後に奇跡が起きて実現してしまいましたが。

まさか、自分がサンタクロースになろうなどとは、子どもの頃には考えてもいませんでした。(撮影:角田明子)

本当に、将来何になろうかと、意識したのは高校2年生の頃。

「今、街中を走っているクルマより、もっとマシなデザインのクルマは作れないものか?」

ということで、カーデザイナーになりたい、なりたい!と思うように。

それも、結局、大学卒業後に自動車会社に就職し、目標は達成されてしまいました。

あれこれ夢に描いていた仕事を、次々と実現させたのはいいけれど「何かが足りていない」という思いがくすぶってきた30代の半ば。音楽でも、デザインでも、規模が大きくなればなるほど、メジャーになればなるほど、自分自身の存在が薄くなるものだと悟りはじめました。

他人に使われるのも嫌だけど、他人を使うのはもっと嫌。

改めて、心から納得できる自分の生き方の追い求め、露頭に迷いかけた寸前、知人から「高級しゃぶしゃぶ食べに行きましょう」という、まさに運命のお誘いがありました。

デンマーク、ノルウェー、スウェーデンの3か国による公的な観光プロモーションを行なう、スカンジナビア政府観光局の職員さんと、六本木の高級しゃぶしゃぶ店で初めての会食。

「パラダイスさんは、サンタクロースに興味はありますか?」という話が唐突に振られました。

普段食べているオージービーフのしゃぶしゃぶより、和牛のほうが早くアクが出るということをその時初めて知りました。

「私、大学受験直前まで、毎年サンタさんがプレゼント持ってウチに来ていましたよ」

「えっ、サンタさん、毎年来ていたんですか!」

おろしポン酢のタレに肉を浸して食べるより、胡麻ダレをほんの少しつけて食べたほうが、肉の旨味を感じることができました。

「毎年クリスマスといえば、札幌はもちろんホワイトクリスマス。小さい頃は、当時とても高価だったデンマーク製のLEGOブロック。それがやがて絵本だったり、辞書になったり、ついには大学入試の赤本になったり、まぁ、サンタさんからは毎年いろいろもらい続けていました。窓の外にサンタさんの足跡が残っていたりと、完璧すぎました」

高級な和牛は、しゃぶしゃぶすることなく、タレをつけてそのまま食べられるということも知りました。後半は、ほとんどしゃぶしゃぶしていませんでした。

「私が遊んでいた歯型がついたLEGOブロックは、そっくりそのまま、今、うちの息子がそれで遊んでいます」

「えー、デンマークのLEGOが親から子へですか! それは素敵です!」

もぐもぐ。

「それでは、ぜひデンマークへ行っていただいて、日本人、いやアジアから初めての公認サンタクロースを目指してきてくださいっ!」

毎年7月に、デンマークの首都コペンハーゲン郊外のバッケンで「世界サンタクロース会議」が開催されます。(撮影:角田明子)

あくまでも、これ「旅コラム」ですので、それから20年の間に起こったこと、身に降りかかった様々な出来事は、別の機会にゆっくりお話しすることにして、気がつけば、いい恰幅にもなってしまって、毎年デンマーク、ノルウェー、スウェーデンへ渡航するようになりました。

7月の後半、デンマークの首都コペンハーゲンで開かれる「世界サンタクロース会議」には、自宅から飛行機の中までサンタさんの衣裳のまま、1998年から毎年欠かさず参加。世界中から集まる公認サンタクロースのみなさんからインスピレーションをもらい続けて今に至っています。

世の中には、たくさんのボランティアが存在しますが、私自身にしかできない、自分自身の範囲内で完結できることを常に意識して、これまで公認サンタクロースとしての活動を続けてくることができました。

おとうさん、おかあさんの顔を知らなかったり、事情があって離ればなれになって生活していたり、身体を思うように動かせなくて病院で生活している子どもたちの元を、クリスマスがくるずっと前に訪問してお話をしたり、悩みを聞いてあげたり。

「また、会いに来てほしい」

サンタクロースの善し悪しは、子どもにしか決められません。

公認サンタクロース歴 20年なんていうのは、長老サンタさんからは、まだ新米のペーペーにしか見えないはず。だからこそ、まだまだ、自分を追い込んだり、経験を積まなくてはと思います。公認サンタクロースから転身して政治家になって……とかは、ないです。ここまで来たら、生涯サンタです。

珍しいサンタクロースの座学風景 。(撮影:角田明子)

さて、いよいよ今回の旅のお話というか、前回でご紹介した旅の続きです。

昨年から「世界サンタクロース会議」(7月後半開催)よりさらに1か月前に、ユトランド半島の突端に位置するデンマークのフレゼリクスハウンという港町で「Jun i Juni」という、街を挙げてのサンタクロースの催しが始まりました。6月、7月と連続のデンマーク訪問は、私にとってなかなかハードなのですが、招待状が届いてしまいましたので、はるばる出かけました。

↓人口2万5000人ほどの、こじんまりとした港町フレゼリクスハウン。対岸のスウェーデン、ノルウェーから大型フェリーが毎日発着、デンマーク海軍の軍艦も停泊しています。

実は、このイベントの一切を仕切るサンタクロースは、私の後輩サンタさん。

こう見えても、私のほう(写真右、念のため)が年上なんです。デンマークの後輩サンタさんのリアル髭、ちょっとうらやましいです。(撮影:パラダイス山元)

トナカイの過剰労働や、地球環境に配慮した「近未来系そり」の試作車をつくったり、様々なグラフィックや、プロダクトをすべてひとりでこなす、まさにイノベーショナルなサンタビジョンのスキームをマルチタスクするためのオポチュニティを目指す意識高い系サンタさん (笑) 。

その彼が、自信満々で、私に来てほしいというのですから、行かないわけにいきません。

↓恥ずかしながら、祝辞というか、開会のご挨拶を。

後輩サンタさんの仕事場 。(撮影:パラダイス山元)

↓近未来系そり、ちゃんと動いていました。

デンマーク以外からは、ノルウェー、そして日本から、その家族を含めると30名以上のサンタさんと、サンタさんのお手伝いをするニッセ(北欧に古くから伝わる妖精)が集まりました。(撮影:パラダイス山元)

パレードや、クリスマスには欠かせないライスポリッジのふるまい、ショップ店員とサンタさんのラッピング競争、さらに海水浴など、日長歌ったり、踊ったりと、実にデンマークらしい、ユルくて、よいイベントでした。

↓楽隊、クラシックカー、あれこれ仕切るのたいへんそうです。私がお手本なのだとか……。

↓クリスマスプレゼントのラッピングは、きれいに、丁寧に、何より速くが基本です。

伝統を守り抜くのも、新しいことを結びつけていくのも、どちらも大事なことです。

↓デンマークのサンタさん、ミセスサンタさんは、エンドレスで歌い踊リマス、真夏のクリスマス。

せっかく日本から来てくれたのだからと、みんなで海辺へ日の出を拝みに行こうと、3時半にサンタクロースの正装でB&Bを出発。フレゼリクスハウンの海岸。(撮影:通りすがりの人)

↓ほんの3時間前まで、歌って、語っていたとは思えない、パワフルなサンタさんたち。

ノルウェーのニッセ、フレア・カリちゃんは、おかあさんのお腹の中に入っている頃?からのお友だち。日本のクリスマスイベントにも2回来ています。将来が楽しみですね。(撮影:パラダイス山元)

↓ほんの数年前まで、よちよち歩きの赤ちゃんでしたのに。

読者の皆さんも、来年の2019年6月22日、3回目となる「Jun i Juni」に、本家デンマーク・ビルンのレゴランド見物ついでに、フレゼリクスハウンまで足を伸ばしてみてはいかがかしら?

文/パラダイス山元(ぱらだいすやまもと)
昭和37年、北海道生まれ。1年間に1024回の搭乗記録をもつ飛行機エッセイスト、カーデザイナー、グリーンランド国際サンタクロース協会公認サンタクロース日本代表、招待制高級紳士餃子レストラン蔓餃苑のオーナー、東京パノラママンボボーイズで活躍するマンボミュージシャン。近著に「なぜデキる男とモテる女は飛行機に乗るのか?」(ダイヤモンド・ビッグ社)、「読む餃子」「パラダイス山元の飛行機の乗り方」(ともに新潮文庫刊)など。

 

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