文・写真/原田慶子(ペルー在住ライター)
米CNNが「2018年に訪れるべき18の場所」の1つに選んだ、アンデスの街カハマルカ。標高は2750mと富士山の7合目くらいだが、緯度が低いため気候は比較的温暖だ。

世界中の旅行者がひしめくクスコにはない、牧歌的な雰囲気も魅力的。今回は、そんな古代アンデス史の終焉を見つめ続けた街・カハマルカをご案内しよう。

*  *  *

首都リマから北へ飛行機で1時間20分。カハマルカ州と同名の州都カハマルカは、四方を山々に囲まれた風光明媚な街だ。

街を見下ろす「サンタ・アポロニアの丘」と、その頂上へ続くカハマルカ名物の急な石段。石段の両脇に配されているのは、郊外のクントゥルワシ遺跡で発掘されたモノリートと呼ばれる石彫のレプリカだ。

頂上からは、アンデスらしい色あせた赤茶色の家並みと、その背後に広がる山々を一望することができる。街の中央に見えるのがアルマス広場。ここはインカ皇帝アタワルパがスペイン人侵略者たちに捕らえられ、その魂がハナンパチャ(インカの思想でいう天上界のこと)へと旅立った場所である。

カハマルカの中心から約6㎞東にある「インカの湯」。現在は「インカの温泉・総合観光施設」として整備され、宿泊施設や個室風呂、サウナ、スパなどが併設されている。

海外には水着着用というプールタイプの温泉が少なくないが、ここの個室は日本の家庭風呂的な感覚でくつろげる。利用者の入替時には係員がすぐ掃除してくれるので、いつも清潔だ。

施設の一角に残る、アタワルパの湯場。修復のせいか少々趣きに欠けるものの、石のサイズが揃っていることやその加工が丁寧なこと、インカの聖なる水場に多く見られるような水路があることからも、ここが特別な場所であったことは疑う余地がない。

1532年11月15日、この温泉で英気を養っていたアタワルパのもとに、スペイン人征服者フランシスコ・ピサロの使いが訪れ、謁見を申し込んだ。日時は翌日夕刻、場所は村の広場(現在のアルマス広場)とされた。

市民の憩いの場として愛されている現在のアルマス広場。貴族や兵士など数千の供を引き連れ広場に現れたアタワルパの荘厳ないでたちや、その鷹揚なふるまいについての記述が中世の年代記に多数残されている。

謁見とは口実で、最初からアタワルパを生け捕るつもりだったピサロたちは、広場周辺の建物に隠れその機会をうかがっていた。ピサロの叫び声を合図にペイン人たちは一斉攻撃を開始。火縄銃や大砲というそれまでアンデス世界になかった火器を前に、インカの兵たちは成すすべもなく倒れていった。このようにして、インカ皇帝アタワルパはわずか168名のスペイン人征服者の手に落ちたのである。

アルマス広場のすぐ近くにある「身代金の部屋」と呼ばれる石造りの建物。アタワルパはスペイン人たちの金銀に対する異常なまでの執着を知り、「余を開放するなら、この部屋を黄金で満たしてやろう」と約束した。その言葉通り、アタワルパは瞬く間に部屋いっぱいの黄金と、その2倍の銀を集めさせたという。

囚われの身となってもなお絶大な権力を誇るインカ皇帝を恐れたピサロは、約束を違えアタワルパを広場で処刑してしまった。彼の遺体は広場に面した教会の地下に埋葬されたが、数日後に跡形もなく消えていたという。

インカの残党と戦いながらピサロ一行はクスコに入城、その支配を強めていく。歴史の表舞台がクスコへ、そしてリマへと移りゆく中、カハマルカの村もスペイン風の街並みへと生まれ変わっていった。

広場に面した「カテドラル(大聖堂)」。内部に鎮座する金箔製の教壇や、彫刻が見事なファサード(教会建物の正面)も見逃せない。

ライトアップされた「サン・フランシスコ教会」。建設開始は1699年だが、正面の2つの塔が完成したのは1958年というから驚きだ。

その爽やかな気候から酪農が盛んなカハマルカ。街の至るところに乳製品の販売店があり、フレッシュミルクはもとより、バターやチーズ、ヨーグルトなどが多数売られている。オススメは、ハーブやペルー産唐辛子入りのチーズ。旅の思い出におひとついかがだろう。

ペルーのアンデス地方は今からおよそ11月までが乾期、アンデスの青空が楽しめる絶好のシーズンだ。500年前の歴史的情景に思いを馳せながら、そぞろ歩きを楽しみたい。

文・写真/原田慶子(ペルー在住)
2006年よりペルー・リマ在住。『地球の歩き方』(ダイヤモンドビッグ社)や『トリコガイド』(エイ出版社)のペルー取材・撮影を始め、数々の媒体やサイトにペルー旅行情報を執筆。海外書き人クラブ所属。

 

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