文・写真/原田慶子(海外書き人クラブ/ペルー在住ライター)

今、ペルー料理の躍進が止まらない。ペルーのレストランは2018年の「世界のベストレストラン50」に3店、2017年の「ラテンアメリカベストレストラン50」には10店がランクインしている。高級店だけでなく、ありふれた街角のレストランや市場の食堂ですら、思いもよらない感動的な一品に出会える国。旅行業界のアカデミー賞とされる「ワールド・トラベル・アワーズ」での「世界最優秀グルメ観光地賞」6年連続受賞という快挙も、その実力を証明している。

ペルー料理の美味しさの秘密とはなんだろう、そして世界が注目するトップクラスのレストランとは。今回はその魅力に迫ってみたいと思う。

食のゆりかご、ペルー

太平洋とアンデス山脈、そして熱帯雨林アマゾンを擁すペルー。多様な気候風土に恵まれたこの国は、地球上に117ある生物圏のうち84区分と17の移行地域が存在し、生物の多様性を育んでいる。ペルー原産の野菜や果物は枚挙にいとまがなく、長年の間メソアメリカ原産とされてきたカカオでさえ、最新の調査でその起源はペルーからエクアドルにかけての高地アマゾンエリアであることが判明した。世界広しと言えど、これほど自然が豊かな国は稀だろう。

3000種以上もあるとされるペルーのジャガイモ。アンデスの村々で栽培されるパパ・ナティーバ(原種に近いジャガイモ)はまるで宝石のよう。

色鮮やかなトウガラシたち。ペルー原産トウガラシの種子を収集するリマの農業研究機関と国立ラ・モリーナ農業大学には、併せて900種を超えるサンプルが保存されているそうだ。

国土の西側に位置する太平洋は、豊かな海の幸を人々にもたらしている。旧大陸から牛や豚などの家畜が持ち込まれるずっと前から、アンデスではアルパカやリャマ、クイ(モルモットの一種)、アマゾンでは世界最大級の淡水魚パイチェ(ピラルク)やナマズの仲間ドンセージャ、他にも数々の野生動物が人々の糧となりその生活を支えてきた。

それらの食材に新たな命を吹き込んだのが、アラブの影響を受けたスペインを筆頭に、アフリカやフランス、イタリア、ドイツ、イギリス、中国、そして日本からやってきた移民たちである。作り手の想像力と好奇心を掻き立てる食材がこれだけ豊富にあるのだから、各国の料理自慢たちがその腕を振るわないわけがない。彼らはそれぞれの国の味覚や調理法を広め、それらはまた互いに融合し新たな味へと発展を遂げてきた。こうして生まれたのが、現在のペルー料理というわけである。

美食の都リマのトップレストラン3店

料理で国を変えたと称えられる国民的シェフ、ガストン・アクリオ氏。自国の食文化に誰よりも敬意を払うアクリオ氏のレストラン「アストリッド・イ・ガストン」では、ペルーの伝統料理をベースに彼らしいエスプリを利かせた創作料理が楽しめる。アンデスのご馳走クイは、炭火で丸ごと焼くかトウモロコシの粉を付けてからりと揚げるのが一般的だが、アクリオ氏の手にかかれば一口サイズのおしゃれな前菜に早変わり。北京ダック風に仕上げたクイをペルー原産の紫トウモロコシで作ったトルティージャに包んで食べる「クイ・ペキネス」は、パリパリの皮の上に添えられた大根の甘酢漬けとカラフルなトウガラシがアクセントだ。

「アストリッド・イ・ガストン」の定番の一品「クイ・ペキネス」

ウニのティラディートは、海の幸の新しい食べ方を提案してくれる一品。魚のうま味が凝縮されたレモンソース「レチェ・デ・ティグレ」にホタテを練り込んだ真っ白なピューレと、新鮮な生ウニの相性は抜群。ウニとレモンがこれほど合うとは驚きだ。

冷えたシャブリと一緒に、ふわふわのとろけるような舌触りを心行くまで堪能しよう。

【Astrid y Gastón】
住所:Av. Paz Soldán 290, San Isidro, Lima
URL:www.astridygaston.com

ペルーの大地が育んだ大いなる恵みを、ガストロノミーだけでなくアートの世界にまで昇華させたのが「世界のベストレストラン50」で6位(2018年)にランクインする「セントラル」のビルヒリオ・マルティネス氏。食の調査研究チーム「マーテル」を立ち上げた彼は、標高数千mの高地にのみ育つ地衣類から前人未到のジャングルに咲く幻の花に至るまで、ペルー中のありとあらゆる植物を調査し食材としての可能性を追求し続けている。ペルーが誇るジャガイモやキヌア、シーフードもふんだんに取り入れ、唯一無二のオリジナリティあふれる一品を創造する料理クリエイターだ。

コルディエラ・バハと名付けられた一品は、トウガラシの風味を加えた豚肉に黒マシュア(根菜)のピューレをかけ、数種類のジャガイモチップスとキウイチャ(穀類)を添えたもの。チップスとともに飾られた美しい木の葉も、セントラルが管理する農園で育てられたものだ。

photo by Central/前衛的な盛り付けが特徴の「セントラル」。料理はコースのみで、四半期ごとに内容を変更。予約受付は各四半期開始の1か月前から。

【Central Restaurante】
住所:Av. Pedro de Osma 301, Barranco, Lima
URL:centralrestaurante.com.pe

ペルー料理にさまざまな影響を与えた移住者の中でも、日本人移民はまさに革命的だった。日本料理とペルー料理のフュージョン「ニッケイ料理」は、今この国で最も注目を集めている食のジャンル。日系3世のシェフ、ミツハル・ツムラの「マイド」は「世界のベストレストラン50」で7位(2018年)、「ラテンアメリカベストレストラン50」で1位(2017年)を獲得している。和風のフュージョン料理をわざわざペルーで食べなくてもと侮るなかれ、その創造性あふれるハイクオリティな料理を前にしたとたん、そんな先入観は一瞬で消えるに違いない。

photo by Maido/アワビに似た食感のラパ貝を使ったセビーチェ。瞬間冷凍したレチェ・デ・ティグレが後を引く美味しさ。

「マイド」ではデザートも人気。ペルー産カカオを使った濃厚なムースに、アマゾンのフルーツと柔らかな餅を添えて。

【Maido】
住所:Calle San Martín 399 ( Esquina con Calle Colón), Miraflores, Lima
URL:www.maido.pe

ペルー貿易観光促進庁によると、ペルーを訪れる外国人旅行者のうち、ペルー料理を目的にしている人は82%に上るという。観光地やホテルと同じように、訪れるべきレストランや味わうべき一皿を事前にチェックするのはもはや旅のマストだ。「旅の醍醐味は食にあり」とする世界のフーディーズたちを魅了し続ける国ペルー。日本から丸一日かけてやってくるのだから、この際思い出に残る料理を心行くまで堪能しようではないか。

文・写真/原田慶子(ペルー在住ライター)
2006年よりペルー・リマ在住。『地球の歩き方』(ダイヤモンドビッグ社)や『トリコガイド』(エイ出版社)のペルー取材・撮影を始め、ラジオ番組やウェブマガジンなど多くの媒体でペルーの魅力を紹介。海外書き人クラブ(http://www.kaigaikakibito.com/)所属。

 

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