取材・文/藤田麻希
明治から大正にかけて活躍した画家・竹久夢二(たけひさ・ゆめじ、1884~1934)は、日本の美人像に変革をもたらしました。大きな瞳で憂いを帯びた表情を浮かべる独特の女性像、いわゆる「夢二式美人」は、浮世絵の類型化された目の細い女性像を見慣れていた人たちにとっては、まったく新しいものに映りました。
現在、竹久夢二の作品を集めた展覧会《夢二繚乱》が、東京駅にある東京ステーションギャラリーで開催されています(〜2018年7月1日まで)。今展は、龍星閣という出版社が、夢二の画集を刊行するために集めたコレクションが中心になっており、とくに装丁した本や楽譜、絵ハガキなど、デザイン分野の作品が多く展示されています。
夢二は、正式な絵画教育は受けていない、ほぼ独学の画家です。その画業は、新聞や雑誌に投稿する「コマ絵」(現在で言うところのカット)から始まりました。そのコマ絵を集めた『夢二画集 春の巻』を出版したところ、9版刷りになるほどの人気を集め、一躍有名となったのです。大正元年(1912)の、京都府立図書館での初個展には多くの人が訪れ、同時期に開催されていた文展をしのぐほどの賑わいだったとも言われています。
そのブームのなかで、夢二は、それまでの画家が誰もやっていなかったことを始めます。大正3年(1914)、日本橋呉服町に、夢二デザインの千代紙や便箋や封筒、着物の半襟や書籍などを販売する「港屋絵草紙店」を開店したのです。雑誌などでも紹介され、間口2間、奥行2間の小さな店内は、少女たちで賑わいました。今で言う、ファンシーショップの走りのようなものでした。
港屋絵草紙店には、夢二を慕う若い画家も出入りしました。版画雑誌『月映』のグループの恩地孝四郎や洋画家の東郷青児など、前衛傾向の作家が訪れ、店の二階で集い、一種のサロンのようになっていました。
夢二は美人画を描くのみではなく、欧米の最新の美術動向を勉強し、制作に生かしていたため、その点にも彼らは惹きつけられたのでしょう。ときには、港屋を舞台に展覧会も開催しています。夢二のファンといえば、どうしても女性を思い浮かべてしまいますが、じつは男性も多くいたのです。
東京ステーションギャラリーの冨田章館長は、忘れてはならない夢二の画業に、ファッションデザインがあるといいます。
「夢二は、グラフィックデザインだけでなく、ファッションデザインにおいても重要な位置にいます。港屋で着物の半襟、帯、浴衣などのデザインを発表していましたし、さらに夢二式美人の女性が着ている着物のデザインは、既存の着物の柄を写したものではなく、基本的には夢二のオリジナルです。当時、夢二は非常に人気がありましたので、若い女性は夢二の絵を持って、着物屋さんに行って、こういうふうに作ってとお願いすることもあったようです。夢二自身が着物をつくったわけではないですが、夢二と夢二を好きな女性たちが共同で当時のファッションを作っていたわけです」
夢二のファッションデザインやグラフィックデザインは、現代においてもまったく古さを感じさせない洗練されたものです。想像以上に多彩な夢二の才能に気づくことができる展覧会です。
【展覧会概要】
夢二繚乱
会期:2018年5月19日(土)~7月1日(日)
会場:東京ステーションギャラリー
住所:東京都千代田区丸の内1-9-1
電話番号:03-3212-2485
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/
開館時間:10:00~18:00
※金曜日は20:00まで開館
※入館は閉館の30分前まで
休館日:6月25日をのぞく月曜日
取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』