文・写真/杉﨑行恭

廃線となった旅客線や森林鉄道などを一部の区間で復活し、車両を動態(走れる状態)で展示している鉄道を「保存鉄道」という。今ではなかなかお目にかかれない懐かしい車両が、現役当時の姿で走っているのだ。そしてもちろん、乗ることができる。

そんな男心をくすぐる全国の保存鉄道の中から、いくつか選んでご紹介しよう。あなたもこれらの鉄道へ乗りに、出かけてみませんか?

※以下の記載は小学館SJムック『保存鉄道に乗ろう』(平成24年6月刊)からの転載記事です。転載にあたり構成や文章を一部改めました。写真は一部を除き初出当時のものです。最新情報については公式サイトにてご確認ください。

■片上鉄道保存会(岡山県美咲町)

片上鉄道は、72年間にわたって硫化鉄鉱を産出した岡山県の柵原鉱山から、瀬戸内海沿岸の片上港までを結んだ鉱山鉄道だ。平成3年(1991)に廃止されるまで、客車も走る民営鉄道として吉井川流域の貴重な足になっていた。

この鉄道は、戦前からの旧型気動車や客車列車が走ることで知られ、廃止後は残された貴重な車両群の行方が心配された。そんな鉄道が消えた山中に、月に一度だけ鉄道が復活しているのが元片上鉄道の吉ケ原駅だ。

旧片上鉄道の車両が集う、吉ケ原駅構内。車両の色も時々塗り替えられる。

「片上鉄道保存会は平成4年に設立されまして、それ以来、残された車両の整備やポイント、場内信号の補修、踏切の復元などをし、列車が走れるようにしました」と片上鉄道保存会の代表幹事・森岡誠冶さんは言う。そして平成10年(1998)年に保存展示運転ができる『柵原ふれあい鉱山公園』が開園。「片上鉄道保存会」の手によって日本初の民間動態保存となる車両展示運転が行なわれた。

以来、毎月のように展示運転が開催され、寂しかった旧吉ケ原駅舎に賑わいが戻った。ここでは単に旧型車両を走らせるだけではなく、鉄道を体系的に復元する方針で、駅舎や踏切小屋なども忠実に再生している。このため木造駅舎の改札口や、今となっては小ぶりな車両の座席も懐かしく、まるで古い日本映画の中にいるような錯覚を覚える。

特に動態車両の多さには目を見張るものがあり、同形のものが大宮の『鉄道博物館』や門司港の『九州鉄道記念館』に展示されている戦前型のキハ303、キハ312、キハ702がエンジン音と響かせて走る姿は圧巻。

展示走行に登板する、昭和9年製のキハ303こと元国鉄型キハ04気動車は、動態の気動車では日本一の古さだ。

このような古典車両はエンジンを始動させるだけでも技術が必要で、保存会には元片上鉄道の技術者も参加しているという。

「なにしろ古い機械なので、キハ702などは1日動かすだけでも、ものすごく冷却液を消費します。もう1日動かすためには1か月整備する状態です」という。

キハ702の車内。戦前に製造されたため、少々窮屈なボックス席が並ぶ。卵かけご飯が名物となった美咲き町は黄色がイメージカラー。

20人ほどのメンバーで運営する展示運転のほかに、作業日を決めて保線から検修までを行ない、「およそ鉄道に必要なことはすべてあり、日々、問題に直面しています」と森岡さんは笑う。

運転は天候と車種でブレーキのタイミングが違ってくるので神経を使う。

訪ねた運転日には30分ごとに気動車のホイッスルが鳴り響き、軌間1067mm、約300mの運転線をキハ312やキハ702の古典車両がゆっくりと往復する。係員は全員制服着用でぽっぽやに変身、きびきびと働く姿はよき時代の鉄道員そのものだ。

基本的に体験乗車中の車両にはヘッドマークを掲げる決まりで「しらさぎ」「わかあゆ」「ふるさと」の3種類は片上鉄道にあったものを復刻している。

気動車が運行される際には、愛称板が取り付けられる。「しらさぎ」「わかあゆ」「ふるさと」の3種類があり、発車前に駅長が取り替える。

平成18年、とんがり屋根の吉ケ原駅舎は国の登録有形文化財に指定された。森岡さんも「実はこの形の駅舎は、片上鉄道では何か所もあった共通のものです。でも残るのはここだけ。だから駅舎も将来はもっと現役当時の姿に戻したい」と夢を語る。

駅名の看板が残る、木造駅舎の旧片上鉄道吉ケ原駅。構内に足を踏み入れれば、貴重な保存車両の数々と出会える。

まるで鉄道車両のガラパゴスのような吉ケ原駅の保存鉄道。今や地元・美咲町では最大の観光資源になっている。

*  *  *

【追記】なお平成26年11月には線路を130m延伸し、北側の終着駅として新たに黄副柵原駅が設けられさらに本格的な保存鉄道になった。

黄副柵原駅(撮影/坪内政美)

また展示運転日(通常毎月第1日曜日)には地元婦人会の協力でオリジナル駅弁も販売される。

オリジナル駅弁(撮影/坪内政美)

吉ケ原駅(撮影/坪内政美)

【施設ガイド】
『柵原ふれあい鉱山公園』
岡山県久米郡美咲町吉ケ原394-2
営業日:公園は入園自由
営業時間:9時~17時(入館は16時30分まで)
定休日:月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始

『片上鉄道保存会』
柵原ふれあい鉱山公園内
運転日:毎月第1日曜日
乗車料金:1日会員300円(当日何度でも乗車可)
展示運転:10時~15時までの間10往復

【公式ページ】
http://katatetsu.travel.coocan.jp/

文・写真/杉﨑行恭

※記載は小学館SJムック『保存鉄道に乗ろう』からの転載記事です。転載にあたり構成や文章を一部改めました。最新情報については公式サイトでご確認ください。

 

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