新着記事

世界最大の陸の孤島!映画「フィツカラルド」誕生の地、ペルー・イキトス

文・写真/原田慶子(海外書き人クラブ/ペルー在住ライター)ドイツの巨匠ヴェルナー・ヘルツ…

かつのう3点セット|シンプルで奥深い木製パズルで脳を刺激

「かつのう」とは、脳へ適度な刺激を与えながら楽しく取り組めるパズルシリーズの名称だ。その中か…

【インタビュー】渡辺京二(思想史家・87歳)「イデオロギーは矛盾だらけ。だから歴史を学び直し人間の真実を追究するのです」

【サライ・インタビュー】渡辺京二さん(わたなべ・きょうじ、思想史家)――日本の近代論や思…

没後50年、藤田嗣治の足跡を辿る史上最大級の回顧展

取材・文/池田充枝没後50年の節目に、藤田嗣治の史上最大級の大回顧展が開かれています…

【夕刊サライ/福澤朗】楽しく飲むためのマイルール(福澤朗の美味・料理コラム 第11回)

夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。金…

ホースレザーのスリムショルダーバッグ|上質な馬革を使った軽くしなやかな2ウェイ鞄

軽くて丈夫な馬革を使った、新型のショルダーバッグが届いた。縦型のスリムな形状に、サライ世代の…

ブームの行方は?2020年のアナログ予想【オーディオ小僧のアナログ日誌 最終回】

文・絵/牧野良幸今回でこの連載も最終回となった。そこで最後は将来のオーディオ小僧のア…

4日目《新得から根室へ・その2》【実録・JR北海道全線踏破10日間の旅】

昨年夏『サライ.jp』に連載され好評を博した《実録「青春18きっぷ」で行ける日本縦断列車旅》。九州・…

4日目《新得から根室へ・その1》【実録・JR北海道全線踏破10日間の旅】

昨年夏『サライ.jp』に連載され好評を博した《実録「青春18きっぷ」で行ける日本縦断列車旅》。九州・…

【夕刊サライ/パラダイス山元】メキシコ:片道7000マイル、半径100メートルの極端にピンポイントの旅(パラダイス山元の旅行コラム 第11回)

夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。木曜日…

サライ最新号

ピックアップ記事

>>過去の記事へ

サライの通販

>>過去の記事へ

旅行

【夕刊サライ/角田光代】タイ:会いたい、でも会いたくない(角田光代の旅行コラム 最終回)

夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。木曜日は「旅行」をテーマに、角田光代さんが執筆します。

文・写真/角田光代(作家)

一度訪れた国を再訪する、ということが年齢を重ねてから増えた。それとは異なり、若き日から「同じ場所を旅しない」という自分内ルールを無視して何度も何度も訪れ、いまだにくり返し旅している国がある。タイだ。

はじめてタイを旅したのが1991年、すっかり取り憑かれたようにタイが好きになってしまい、以後、ラオスに行くのにもマレーシアに行くのにもわざわざタイの国境を通過する旅程を組んだ。一時期、パスポートにタイの(しかもあらゆる場所のイミグレーションの)出入国スタンプが多いので、「タイに何かあるんですか」と税関で訊かれたことがある。もちろん荷物も入念に調べられた。何か輸出入しているのかと思われたのだろう。「いいえ、ただ好きなんです」と答えたら、職員は不審な顔をしていたが、好きだから行く、これ以上シンプルな渡航の理由があるだろうか。いちばん最近では2016年にパンガン島とバンコクを旅した。とはいえ前年にも、そのまた前年にも旅している。

27年も旅していると、刻々と街が変わっていくのを物理的に見ることができる。バンコクを走るスカイトレインの工事がはじまったときは、「きっと半永久的に完成の日はこないのではないか」と思ったが、もちろんすぐにスカイトレインは開通し、さらには地下鉄まで走るようになった。あれよあれよという間に物乞いはいなくなり、近代的なビルが建ち並び、街は近未来のような変貌を遂げていく。

1999年末に開通した高架式の鉄道スカイトレイン(BTS)。バンコク中心部の繁華街を走る。(撮影:角田光代)

変わったなあと思いながら街を歩いていると、不思議に、変わらない部分ばかりが目につく。ひしめく露天商や、路地のにおい、寝そべる犬と人なつこい野良猫、それから、困っている人を見過ごせないタイの人たち。道を尋ねた24歳の私を目的地まで送ってくれたのと同じように、48歳の私の訊いた目的地を、いっしょに探して歩いてくれる人がいる。

漢字の看板が連なるバンコクのチャイナタウン。この街の雰囲気は以前と変わらない。

1991年、私は旅の途中でタオ島という小さな島に行った。いまだに私のなかで、パラダイスと同義の島だ。この島での滞在が、現在の私の内で支柱のようなものになっている。この島だけは再訪できずにいる。この27年、数え切れないくらいタイに行っているというのに、その思い出のパラダイスにだけは行くことができない。

旅好きの人から、ごくまれにタオ島の話を聞く。24年前は電気も通っていない、商店も数えるほどしかない島だったのだが、今は電気も水道もあり、豪華リゾートホテルがあり、商店街もあり、コンビニエンスストアや日本料理店まであるという。本当に変わったのだなあと、そういう話を聞くたびに思う。そして、その変化を見るのがこわくなる。

発展しないでほしい、というのではない、私の知っている姿のままでいてほしい、というのが正直な思いだが、これもまた、とんでもなく勝手な旅人の感傷だということもまた、わかっている。

2016年に訪れたパンガン島は、じつはこのタオ島の隣にある。フェリーで1時間もせずに行くことができる。タオ島に行けないかわりに、ここ最近、私はこの島を訪れている。タオ島に行きたい、でも知らない島みたいになっていたら、と思うとこわくて行けない、でも行きたい、ならば、その手前の島に行こう、というわけなのだが、人が聞いたら意味不明の旅だろう。

パンガン島の静かな海。パンガン島はタイの南西部、タイ湾に浮かぶ大きな島。

元ヒッピーだったとおぼしき知人の外国人は、40年前にパンガン島を訪れたことがあるという。彼によれば、その当時パンガン島には4軒のゲストハウスしかなかったらしい。パンガン島はいまだにひなびた島だが、しかし今では無数の、超高級から格安まで取りそろえての宿泊施設があるし、道は舗装されていて、レストランが並ぶ一角があり、コンビニエンスストアだって数軒ある。もし私が40年前を知っていたら、今のパンガン島に複雑な思いを抱いただろうか。でもきっと、どんなに街の様相が変われど、この島独特のゆったりした時間の流れ方は、きっと変わっていないだろうと思う。

「ずいぶん変わったけれど、本質的なところは変わっていない」ということを、ほんの少し先のタオ島まで行けば、私は確信できるのだと思う。でも、行けない。はたしてこの先、行けるときがくるのか、私自身にもよくわからない。しかしこの気持ち、30年後の初恋の人に会いたいけれど会いたくない、という気持ちとまったく同じだと思う。

文・写真/角田光代(かくた・みつよ)
昭和42年、神奈川県生まれ。作家。平成2年、『幸福な遊戯』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。近著に『私はあなたの記憶の中に』(小学館刊)など。

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で

関連記事

  1. 【夕刊サライ/福澤朗】楽しく飲むためのマイルール(福澤朗の美味・…
  2. 【夕刊サライ/パラダイス山元】メキシコ:片道7000マイル、半径…
  3. 【夕刊サライ/横山剣】「フォード・コルチナ・ロータスMk1」“ク…
  4. 【夕刊サライ/川合俊一】川合流「出来高」チェックの投資術に必要な…
  5. 【夕刊サライ/神取忍】ケガの絶えないプロレス稼業で、神取は検査マ…
PAGE TOP