兵庫県豊岡市にある城崎温泉は、平安時代から知られる温泉で、大谿川(おおたにがわ)沿いに温泉街が形成されています。名物は外湯めぐりで、昔から城崎では宿を客間、道を廊下として、湯治客が湯巡りに出かけることをもてなしとしていました。
7つの外湯は、商売繁盛、縁結び、家内安全などのご利益を設けて、特徴ある造りになっています。泉質はアトリウム・カルシウム‐塩化物泉で、神経痛などに効能があります。
外湯の湯巡りは浴衣姿が正装とされ、浴衣は宿ごとに粋でカラフルにデザインされています。浴衣の柄を見ればどの宿に宿泊しているかがわかるほどです。街には「ゆかたご意見番」という看板がかかり、着崩れた時には手直しもしてくれます。
城崎温泉は、島崎藤村や有島武郎、与謝野晶子ら多くの文人墨客が訪れたことでも知られています。なかでも志賀直哉は温泉での滞在中の体験をもとに小説『城の崎にて』を著わし、城崎の湯と自然、日本海の恵みを楽しみました。城崎文芸館には、志賀直哉と白樺派の文人の作品などが展示され、湯の街を愛した古人を偲ぶことができます。
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取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。