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桜だけじゃない「秋の吉野」の魅力を堪能する散策路【暮秋の大和路散歩3】

奈良は日本の原型ともいうべき古代文化が発展した地である。「まほろば」と呼ばれた豊かさが今も息づき、奈良を歩くことで心の安寧を得る。華やいだ桜の季節もいいが、秋の奈良には静かな落ち着きがある。さあ大和路へ。

【暮秋の大和路散歩3】
世界遺産の秋を楽しみながら山岳修行の景観を追体験する

吉野の山々が折り重なり、様々な樹木の色合いが入り交じる花矢倉。謡曲『忠信』の舞台である(写真は中千本辺りからの眺め)。

吉野といえば桜を連想する。江戸時代、玉川上水の岸辺に植えられたのも吉野の桜だった。この吉野桜の主となる品種がシロヤマザクラ。この品種は桜の中で唯一紅葉・黄葉する。だから、3万本の桜を擁する吉野では、秋の錦繡もまた感嘆を誘う景色となる。

大阪から吉野へ向かうには、近鉄の新しい観光特急「青の交響曲(シンフオニー)」が便利だ。大阪阿部野橋駅〜吉野駅間まで1時間16分で到着する。

さらに吉野の山に入るのはロープウェイで。玄関口となる吉野千本口駅からわずか3分の運行で吉野山駅に到着する。ここから吉野の象徴である金峯山寺に向かう。

千本口と吉野山を結ぶロープウェイ。開通は昭和4年で、現存する日本最古のロープウェイである。レトロなゴンドラも魅力がある。写真提供/吉野町役場

金峯山寺は白鳳年間に修験道の開祖・役小角(えんのおづぬ)によって創建されたと伝えられる。本堂の蔵王堂国宝で単層裳階付入母屋造り、桧皮葺きの大屋根を持つ壮大な建造物だ。本尊の秘仏・蔵王権現立像は、忿怒の表情をした青塗りの本尊は聖地を守る迫力に充ちている。

吉野山は古代から仙境とされ現世とは違った異境であった。ここで修験者は身体の限りを尽くして修行をした。現在は誰でも手軽に立ち寄れる寺になったが、境内を包む凛とした清浄な空気を味わいたい。本堂の一隅では毎日護摩が焚かれ、立ちのぼる炎に原始の祈りを感じることだろう。

*  *  *

金峯山寺から上千本を目指す。吉水神社までは土産物屋や飲食店が立ち並び参道の風情がある。

吉水神社は元金峯山寺の僧坊で吉水院といった。初期書院造りの傑作といわれる建物(重要文化財)が残り、源義経と静御前の別れの場になったと伝えられる。また後醍醐天皇が吉野に潜幸した際には、ここに御座所が設けられた。さらに豊臣秀吉は花見の本陣にこの書院を使用した。歴史好きなら後醍醐天皇がなぜ南朝を吉野の地に置いたのかを考えるのも楽しいだろう。伝源義経の鎧、後醍醐天皇の宸翰など見るべきものが多い。

吉水神社から勝手神社までは緩い上り道だが、如意輪寺との分岐点を右に行くと傾斜がきつくなる。周りは長閑な民家で、屋根越しに望む紅葉を眼福にゆっくり歩こう。

しばし歩けば大峯山寺の護持院が現れてくる。大峯は吉野から熊野に至る修験道の聖地で、五か寺の護持院によって守られている。

今回の散策の道沿いには喜蔵院櫻本坊、竹林院の3つの寺があり、それぞれ立派な由緒由来を持つので、参詣して回るのも一興だ。

*  *  *

昼食は竹林院の並びにある『Café Restaurant 魚歌屋』で。ここは主人が猟師も兼ねているので吉野山で獲れる獣肉料理が名物だ。築100年余の宿を改築した店内はゆったりとして落ち着ける。秋から冬の獲物は鹿と猪が中心。ジビエ料理の野性味を失わず、かつ繊細に仕上げるのが主人の腕の見せどころだ。

主人の実家は鮎寿司で知られる『枳殻屋』で、吉野の山野は知り抜いている。ここでは吉野の自然の恵みを思う存分味わうといい。獣肉以外の料理もあるので獣肉が苦手という方もご安心を。

Café Restaurant 魚歌屋<カフェレストラン さかなかや>は古民家を改築した、居心地のよい店。吉野郡吉野町吉野山2296 電話:0746・39・9255 営業時間:11時~15時30分、17時~21時(夜は2日前までに要予約) 定休日:水曜 26席。

手前より天然鹿肉と天然猪肉の合挽ハンバーグ、猪のスモークタンのサラダ、猪の内臓肉入りアヒージョ、パン、以上セットのジビエランチ3000円。グラスワイン600円。

昼食処からしばらく歩いて行くと、上千本への道は傾斜を増してくる。吉野水分神社への道標を確認して登ろう。吉野水分神社の手前に金峯山寺の蔵王堂を見下ろす花矢倉の展望台がある。シロヤマザクラが秋に見せる葉の変容をゆっくりと観賞したい。

吉野水分神社は紅葉の名所として知られる。水を司る神を祀るが、「みくまり」を「みこもり」と敢えて誤読して、古くから子宝の神として地元では信仰している。桃山時代の再建とされる社殿は鄙ているが華やかな印象を与える。

吉野水分神社から高城山展望台まで、いよいよ山道となる。この先は金峯神社を中心とする奥千本となるが、今回の散策では高城山がゴールである。主道から展望台に至る道は紅葉がひときわ美しい。戻りはここからバス利用となるが、バス時刻の確認をお忘れなく。

高城山展望台までの枝道は傾斜がきついが、吉野屈指の紅葉の名所だ。紅葉を愛め でながらゆっくりと登りたい。吉野郡吉野町吉野山

以上、今回は秋の吉野をたのしむ散策ルートをご紹介した。桜だけではない、秋ならではの吉野の魅力を感じていただきたい。

※この記事は『サライ』本誌2016年11月号より転載しました。(取材・文/北吉洋一 撮影/小林禎弘)

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