三方の山から流れる清らかな川や豊富な地下水脈に恵まれる「水のみやこ」。この町に名高い産業や文化を次々と花開かせた名水の存在とは。水が育んだ都の「今」を垣間見る。
「水の都」という視点で京都を訪ねるとき、大きく浮かび上がるのが弘法大師・空海だ。唐から真言密教を持ち帰った空海は、水をも意のままに操れる上人として人々から崇められていく。
岩壁に穿たれた横井戸
弘法大師ゆかりの水は全国に数多あるが、京都にはとりわけ多くの伝説が残る。自らも名水探訪を楽しむ京都産業大学教授の鈴木康久さんのお気に入りは洛東、泉寺界隈。泉涌寺という名が示すように、東山に降った雨が通る地下水脈が広がる。
「まずは塔頭のひとつ、来迎院の独鈷水。弘法大師が独鈷という法具で岩肌を突くと水が湧き出たと伝わります。境内の茶室では独鈷水で点てたお茶も楽しめます」
来迎院の独鈷水は横井戸である。味わうときは柄が1.5mもある柄杓を奥まで差し入れて汲む。
隣接する今熊野観音寺の五智水も弘法大師が法具を突いて湧き出させたとされる井戸だ。今熊野観音は後白河上皇の持病だった頭痛を治したという縁起から「頭の観音さん」とも呼ばれている。
来迎院
京都市東山区泉涌寺山内町33
電話:075・561・8813
参拝時間:9時~17時 境内自由
交通:京阪本線またはJR奈良線東福寺駅下車、徒歩約20分
今熊野観音寺
京都市東山区泉涌寺山内町32
電話:075・561・5511
参拝時間:8時~17時 境内自由
交通:JR奈良線東福寺駅下車、徒歩約15分
取材・文/鹿熊 勤 撮影/奥田高文