三方の山から流れる清らかな川や豊富な地下水脈に恵まれる「水のみやこ」。この町に名高い産業や文化を次々と花開かせた名水の存在とは。水が育んだ都の「今」を垣間見る。
功徳水、金色水、延命水…。“3本の筧”の由来を知る
東山三十六峰のひとつ、音羽山中腹にある清水寺の開創は宝亀9年(778)。奈良で修行を重ねた賢心(後の延鎮上人)が、霊夢に導かれてたどり着いたのがこの地だ。清水寺の名はこのとき賢心が見つけた滝の流れにちなむ。庵だけの行場に寺院を寄進したのは、征夷大将軍の坂上田村麻呂。鹿狩りの途中で会った賢心から殺生の罪を説かれ、改心したという。
桓武天皇の勅願寺でもある清水寺は、平安期から参詣地として人気を集めた。紫式部や清少納言も訪れている。江戸期の名所案内では京の筆頭名所に位置づけられる。旅人の目当ては今と同じだ。懸崖造りの本堂からせり出した高さ13mの檜舞台、通称「清水の舞台」から見下ろす絶景である。
開山以来清らかな水を流し続ける音羽の滝も、清水の舞台に負けず人が集った。茶店が汲みに来るほど味がよく、飲めば御利益があると信じられてきたためだ。
水の仏でもある千手観音
清水寺は今も行場時代の面影を残す。江戸期の京の水名所案内『都林泉名勝図会 』には、音羽の滝の下で滝行をしている人の姿が描かれている。奥の院裏手にある濡れ手観音は、本人に代わって水垢離(みずごり)を行なってくれる観音像だ。すぐそばの蓮華水盤の水を柄杓で汲み、像の肩にかけながら祈願すると、水行をしたのと同じだけの功徳が得られるそうだ。
音羽の滝の水が流れ落ちる筧(かけひ)は3本。古くは菩薩の功徳の水、心身を清める金色の水、長寿へ導く延命水などとも呼ばれた。授かることができるという功徳は時代ごとに変わり、江戸時代には仏教の三大煩悩(欲・怒り・愚かさ)からの解放などが、それぞれの筧に当てはめられたこともある。
現代においても、学問上達、健康長寿、縁結びといった御利益が人口に膾炙(かいしゃ)され、多くの参拝者がこの筧の下に集う。
京都産業大学教授の鈴木康久さんはいう。
「私が子どもの頃に周りから聞かされたのは、3つの筧の水を一度に飲んでしまうと願いは叶わないという話でした。一度のお参りごとにひと口だけ味わう。欲張りはいけないという戒めですね」
清水寺の本尊は十一面千手観世音菩薩。その手のひとつは水瓶(すいびょう)を持つ。水を通じて人々の願いを聴き届けてきたのがこの古刹だ。
清水寺
京都市東山区清水1-294
電話:075・551・1234
参拝時間:6時~18時 拝観料:500円
交通:京阪本線祇園四条駅または阪急京都線京都河原町駅下車後、市バスで清水道、五条坂停留所より徒歩約10分