文・写真/坪井由美子(海外書き人クラブ/海外プチ移住ライター)
豪快な骨付き肉やソーセージなどボリューミーな肉料理のイメージが強いドイツ料理。現地のレストランに行くと、日本の2~3倍はありそうな量が出てきてびっくり仰天させられることが多い。そんなドイツで最近ブームなのが、色んな料理をちょっとずつ頼めるタパススタイルのレストラン。タパスといえばスペイン料理だが、アジア系からドイツの郷土料理、ヴィーガン料理までバラエティに富み、おしゃれでモダンな雰囲気も相まって人気を集めている。ドレスデンの流行発信地、新市街で評判の高い2店を訪ねた。
ガラス容器入りのおしゃれなドイツ料理タパス「Lila Sosse」
東部ドイツ、ゲーテ街道の終着点となるドレスデンは、国内外から多くの旅行者が訪れる観光都市だ。アウグスト強王(アウグスト2世)とその息子のアウグスト3世の時代に築かれた壮麗なバロック建築群や世界的に有名な美術館、博物館など多くの観光名所は旧市街にあるが、ドレスデンのトレンド発信地となっているのは、エルべ川の対岸に広がる新市街(ノイシュタット)。なかでも地元の人たちに人気のおしゃれなショップやおいしいレストランが多く集まるのが、オイスレ・ノイシュタットと呼ばれるエリアだ。
新市街観光に欠かせないのが、アーティストが集まる芸術村「クンストホーフ・パッサージュ」。迷路のように繋がった5つのホーフ(中庭)にはそれぞれのテーマに合わせたユニークな建物が並び、歩くだけでもワクワクさせられる。その一角にお目当てのレストランはあった。
ドイツ料理と豊富なワインメニューが評判の「Lila Sosse」(https://www.lilasosse.de/ )の一番の特徴は、料理がガラス製のキャニスターで提供されること。苺のマークで有名なWECK社のガラス容器は、100年以上も前からドイツの家庭で愛されているメイド・イン・ジャーマニー。様々な調理に使えるうえに保存効果も高い優れもので、おしゃれで可愛い、と日本でも評判だ。
金のリースリングと軽やかなドイツ料理
もちもちのショートパスタ「シュペッツレ」(10.50ユーロ)と焼きソーセージ(6.50ユーロ)を頼んでみた。ソーセージには唐辛子入りのマンゴーソースがかけられ、コクがありつつもピリ辛で後引く味わい。ドイツでおなじみの郷土料理が、ガラス容器に入っていることで、うんとおしゃれに感じられて新鮮だ。何より、サイズが大きすぎないのがいい。一般的なドイツ料理店では一皿完食できないことも多いけれど、ここなら1人で来てもあれこれ楽しめそうだ。
飲み物はビールもいいけれど、ここでは地元のワインをいただきたい。ドレスデンを中心とするザクセン地方は、ドイツに13あるワイン生産地のひとつで、この地でしか生産されていない品種「ゴルト・リースリング(金のリースリング)」が味わえるのだ。国外はもちろんのこと、ドイツ国内でもあまりお目にかかれない貴重なワイン。当地を訪れる機会があれば、ぜひお試しあれ。
トレンドのヴィーガン&アジアン・タパス「Vegan House」
別の日に訪れた2軒目のタパスレストランも、前述のクンストホーフ・パッサージュのすぐそばにあった。この辺りは新市街のなかでもミックスカルチャー色が濃いエリアで、様々な国の料理店が集まっている。そのひとつがアジア料理をタパスで楽しめる「Vegan House」(https://www.veganhouse-dresden.de/)。
店名から想像できるように、同店で提供されるのは肉や魚、卵や乳製品などの動物性食品を一切使用しないヴィーガン料理だ。ドイツでは一般的なレストランやカフェでもベジタリアンやヴィーガン向けの選択肢が用意されていることが多いが、最近はヴィーガン料理自体が注目を集めており、都市部を中心にクオリティの高い専門店が増加中。先日、フランクフルトにある某ミシュラン星付きのヴィーガン・レストランを予約しようとしたところ、数か月先まで予約でいっぱいとのことで断念せざるを得なかった。いまやドイツのヴィーガン料理は菜食主義者だけのものではなく、美食の一大トレンドとなっている。
ヴィーガンのイメージを覆す創作アジア料理
同店のタパスメニューは20種類の前菜と3種類のデザートがあり、どれも6.90ユーロとお手頃価格。「EDAMAME」「GYOZA」「KIMUCHI」などアジア諸国にインスパイアされた料理名が並び、興味をそそられる。
「GREEN TOFU STICK」は、豆腐の串揚げにテリヤキソースとラズベリーソースが目にも鮮やかな一品。衣には緑米フレークがまぶしてあり、クリスピーな食感が楽しめる。中華風バーガー「VEGAN BURGER」は、豆腐のパティとマンゴー、さつまいも、きのこなどの具材と甘辛いホイシンソースが絶妙のハーモニー。どの料理もちょっと思いつかないような素材の組合せが新鮮で、見た目も味も満足感があり、ひと昔前のヴィーガン料理のイメージを覆されるものだった。
タパスの他、「ヴィーガンボウル」「グリーンカレー」といった麺類やごはん類も用意されており、これらは大きなサイズのビッグ・ボウル(各13.90ユーロ)で提供される。まわりのテーブルを見たところ、前菜+メイン+デザートと頼んでいる人が多い。ドイツでは各々が自分が食べたいものを注文し、他の人とはシェアしないのが一般的。それがアジア料理であれタパスであれ、そのスタイルは変わらないようだ。
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あれこれ食べてみたい食いしん坊や、ひとり旅愛好者にとって、このようなタパスレストランが増えるのは嬉しいことだ。だけどやはり、ここはドイツ。小皿サイズといえども結構なボリュームがあり、筆者はデザートまでたどりつけなかったのが心残りである。
文・写真/坪井由美子 ライター&リポーター。ドイツ在住10数年を経て、世界各地でプチ移住や語学留学をしながら現地のライフスタイルや文化、グルメについて様々なメディアで発信中。著書『在欧手抜き料理帖』(まほろば社)。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。