スペインといえば、フラメンコや白壁、ブーゲンビリア、ガウディ建築などのイメージが強いかもしれない。しかし、これらは南部や東部のものである。一方、近年は巡礼路や料理などの魅力によって注目されているのが北西部だ。
スペイン北部、カンタブリア海に面するバスク、カンタブリア、アストゥリアス、ガリシアの4州は、海岸線とほぼ平行にカンタブリア山脈が連なる地域。「グリーン・スペイン」と呼ばれているのは、大西洋からの雨風が山脈に当たって恵みの雨を降らせてくれるため、緑が濃く肥沃な土壌だからである。
カンタブリア州にあるアルタミラ洞窟に代表されるように、約1万8000年前には人類が足跡を残していたというエピソードからも、この土地の豊かさを感じ取ることができる。
今回はワールド航空サービスのスペイン担当、萩原さんに、そんな北スペインの田舎町の魅力をご紹介いただこう。
■1:サンセバスチャン
バスク地方のサンセバスチャンは、「ヨーロッパの美食の都」と称される町。スペインにわずか7軒しかないミシュラン3ツ星レストランのうち、3軒がここに存在することからも、その実力を伺うことができるだろう。
リーズナブルなバルが集まる旧市街、昼と夜とで表情を変えるコンチャ・ビーチの美しさ、そのコンチャ湾を高台から見下ろすことができるモンテ・イゲルド(イゲルドの丘)など、見どころは多彩だ。
「おすすめのバルをひとつ挙げるなら、ブレチャ市場近くの『Goiz-Argi(ゴイスアルギ)』。ここの海老の串焼きは絶品です! ぜひ名産の微発泡酒チャコリとともにお試しください」(萩原さん)
■2:コバドンガ
北部スペインの歴史を語るうえで欠かせないのが、アストゥリアス州のコバドンガ。レコンキスタ発祥の地である。722年、キリスト教徒がこの地で初めてイスラム勢に勝利したことが、町に大きな契機をもたらした。
19世紀末に建てられたネオロマネスク様式の教会は、地元の山から採取されたピンク色の大理石が特徴。紛れもなく、その美しさは一朝一夕では生み出すことのできないものである。
ちなみに地名は、Donga(淑女)のCova(洞窟)に由来する。いうまでもなく淑女とは、聖母マリアを示したものだ。
「山間の道を走っているとふと姿を現すそのロマネスク教会の美しさには思わず言葉を呑んでしまいます」(萩原さん)
■3:ア・コルーニャ
スペイン北西部、ガリシア地方に位置するア・コルーニャは、16世紀に英国と海岸の覇権をかけて無敵艦隊が出港した町。現在では、見事なガラスのバルコニーが連なる、個性的な景観美で知られている。地形的には、切り立つ崖と砂丘が特徴。内陸部は、緑豊かな渓谷が美しい。
世界遺産に指定されているヘラクレスの塔を筆頭に、フィニステレ水族館、ア・コルーニャ人間科学館など見どころも多彩だ。
「ガリシア州はケルトの薫りが遺る州。周辺には、ストーンヘンジのような巨石メンヒルも残っています。港町ならではのシーフードもおいしい町です」(萩原さん)
■4:オビエド
711年、イスラム勢力に滅ぼされたアストゥリアス王国の都だったオビエド。この近郊には、ロマネスク建築より前の「プレ・ロマネスク」と呼ばれる建築物が点在し、「オビエドとアストゥリアス王国の建造物群」として世界遺産にも登録されている。深い緑の大地に、長い時を経てもなお佇む教会の風情が印象的。足を運んでみれば、長い歴史を感じ取ることができるだろう。
「オビエドは1泊して訪ねたいところ。宿泊は「ユーロスター・ホテル・デ・ラ・レコンキスタ」をおすすめします。18世紀のアストゥリアス公国の養護施設を改装した5ツ星ホテルです」(萩原さん)
■5:フィステーラ
フィステーラは、イベリア半島北西の最端に位置する町。エルサレムから、聖ヤコブの遺骸が流れ着いた場所といわれている。
「サンチャゴ巡礼の終点の地」として、多くの巡礼者も訪れる場所のひとつ。長い道のりを辿ってきた人々をねぎらうかのように立つ十字架は、町のシンボルでもある。
「地の果て」というその名のとおり、町外れの崖で陸地が終わり、その向こうには大西洋の海原を望むことができる。なお、このスペイン北西岸はリアス(式)海岸の名の由来になった場所でもある。陽光が降り注ぐ地中海の雰囲気とはまた異なる、旅情あふれる地である。
「せっかくここを訪れるのであれば、町から大西洋を望む岸壁まで歩いてみてください。少し巡礼者気分を味わうのも旅の楽しみです」(萩原さん)
以上、北スペインの知られざる田舎町をご紹介した。夏の北スペインは、湿気がなく海風の心地よさが特徴、歴史に自然、小さな町や村、そして「タコのガリシア風」に代表される郷土料理と、魅力がぎっしりと詰まっている。
文/印南敦史 写真提供/ワールド航空サービス