しだれ梅をはじめ紅梅、白梅が東寺の五重塔を彩る。

古都に春来たる。『サライ.jp』の稲葉編集長と「花の京都」を旅した。京都駅を降りて徒歩で向かったのは真言宗総本山の東寺(教王護国寺)である。新幹線の車窓からも見える「東寺の五重塔」で知られる古刹である。

東寺と東海道新幹線。下り列車が京都駅を出発すると左手車窓に五重塔が現れる。

「五重塔は新幹線の車窓からよく見えます。あの塔の中に何があるのか以前からずっと気になっていたんです。この機会に東寺をじっくり拝観しましょう。知ってそうで知らない、京都のランドマークを探訪したいと思います。ことに春の東寺の境内では梅や桜が咲き、五重塔を美しく彩ります。この季節は梅の夜間ライトアップも行われているので、夕刻から訪れるのもいいかもしれません」(稲葉編集長)

境内の案内をお願いしたのは、東寺僧侶の奥井泰仁さんである。

稲葉編集長と東寺拝観部主事で僧侶の奥井泰仁さん。奥の建物は薬師三尊像が鎮座する金堂。

【東寺】「空海の塔」の圧倒的な存在感

高さは約55m、前近代に建てられた現存する木造の塔としては日本で一番の高さを誇る。創建以来4度焼失し、現在の塔は寛永21年(1644)の再建。国宝。
五重塔の初層の庇(ひさし)の下に邪鬼(天邪鬼/あまのじゃく)が見える。塔が倒れることのないように支えているとされる。

奥井拝観部主事(以下、奥井)「塔の中に入る前に、庇(ひさし)の下を見てください。あそこに何かいるのがわかりますか」

稲葉編集長(以下、稲葉)「なにか動物のような……あ、鬼です!」

奥井「その通り。邪鬼が初層の庇の四方で巨大な塔が倒れないように支えていると伝えられています」

稲葉「小さな邪鬼が踏ん張っているのですね。塔が再建されてから380年にわたり“免震装置”のような働きを果たしてきたのでしょうか」

塔の中に入り初層内部を拝観する

五重塔初層内部を拝観。中心の心柱(しんばしら)を大日如来に見立て、須弥壇上の四方に金剛界四仏が配される。四仏は二尊ずつ八大菩薩の彫像が配されている。

稲葉「そもそも、東寺の五重塔はどのような目的で建てられたのでしょうか」

奥井「もともとはお釈迦様をお祀りする仏舎利塔ですが、遠くからもお参りにこられる人のために、よく見えるように高く大きくなっていったのでしょう。五重は下から地、水、火、風、空という仏教世界の要素を表現しているといわれています」

稲葉「今回、特別公開で初層の内部を拝観することができて幸運でした。心柱が建物の中心を貫き55mの高さを支えている。そんな建築の凄さも内部に入ることで実感できました」

講堂の「立体曼荼羅」に入り込む

講堂。東寺が真言密教の道場となるように弘法大師により造築された。内部には21体の仏像がおさまっている。

稲葉「講堂に入ると大小の仏像の数に圧倒されます。像はどのような配置になっているのでしょうか」

奥井「こちらは仏教の世界観を表す曼荼羅(まんだら)を、実際の仏像を配して立体で表したものです。中心に大日如来を中心とする五仏があり、右に五菩薩、左に五大明王が守っているという構図です。如来は慈悲深い菩薩と、怒りの表情の明王という対照的な仏の間にいます」

稲葉「そして、さらに四隅には四天王がおられるのですね。どれも険しい表情です」

奥井「持国天、多聞天、増長天、広目天の四天王は如来と菩薩、明王を護り、険しい表情でガードマンのような役割を果たしています。帝釈天は仏法を護るために四天王を従えています。帝釈天は司令塔ともいえますね」

稲葉「なるほど。仏像の配置を真上から見ると曼荼羅絵図になるわけですね。われわれは、絵図の中に入り込み立体的な仏教体験をしていると。なんとも不思議な気分です」

四天王のひとり、持国天立像(講堂)。足下に邪鬼を踏まえる。高さ183cm、平安時代、国宝。
帝釈天半跏像(講堂)は四天王を従える仏。古代インドの神の様子を表し、象にまたがるのは東寺独特の造形。高さ105.4cm、平安時代、国宝。

金堂のご本尊を拝観する

金堂の薬師如来像(中央)は十二神将像により支えられている。薬師如来像の右が日光菩薩像、左が月光(がっこう)菩薩像。重要文化財。

奥井「創建当初の金堂は文明の土一揆(1486年)により失われました。現在の金堂は豊臣秀頼の援助で再建され1603年に再建されたものです」

稲葉「お堂のなかには、有名な薬師三尊像がわれわれを優しく見つめておられます」

奥井「右に日光菩薩、左に月光菩薩、薬師如来は太陽と月にサポートされて人々をお救いしてこられました。薬師如来が人々の心配や不安をやわらげる医師だとすると、日光菩薩と月光菩薩は看護師のような役割といえます。薬師如来の台座を支える十二神将は、それぞれが干支にちなみ時計回りに並んでいます。真裏の子神将だけ隠れて見えないのですが、ぜひご自身の干支を探してみてください」

桜の季節にも訪れたい

不二桜(八重紅しだれ桜)に彩られる五重塔。弘法大師の「不二のおしえ」(対立するものの根本は同じ)から「不二桜」と名付けられた。見ごろは3月下旬から4月上旬の見込み。

東寺では毎年春と秋に、通常は非公開の国宝や重要文化財を含む仏像や建築、絵画、庭園などが「特別公開」される。花見を兼ねて、京都を訪れた際にはぜひ、普段見ることのできない「伝統の美」の数々にふれてほしい。

東寺拝観案内

京都市南区九条町1番地
電話:075-691-3325
開門時間:5:00~17:00
拝観時間:8:00~17:00(16:30受付終了)
拝観料:「京の冬の旅」五重塔特別拝観(~3月18日)800円(五重塔初層、金堂、講堂)、500円(観智院)、共通券1000円
夜桜ライトアップ(3月16日~4月14日)1000円(金堂、講堂夜間特別拝観)
春期特別公開(3月20日~4月26日)500円(金堂、講堂)、500円(宝物館)、500円(観智院)、共通券1000円
アクセス:JR京都駅八条口より徒歩約15分
https://toji.or.jp/

【北野天満宮】梅苑「花の庭」で梅を愛でる

石畳の参道を進むと天満宮のシンボル、中門の「三光門」が現れる。桃山時代の建築様式を伝える重要文化財。

京都の春の訪れは梅が咲くことで始まる。梅の花と言えば北野天満宮だ。全国に約1万2000社鎮座する天満宮、天神社などの総本社である。地元では“北野さん”と呼ばれて親しまれ、菅原道真公(菅公)ゆかりの「学問の神様」としても有名、受験生の守り神でもある。

「三光門」を入ると御本殿が姿を現す。

本殿と拝殿は一重入母屋造で石の間と楽の間を連結した特徴のある構造を成す、「八棟造」(権現造)の桃山建築の代表的な建物だ。現在の御本殿は豊臣秀吉公の遺命により豊臣秀頼公が1607年(慶長12)に造営した。寺社建築の歴史と伝統を伝え国宝に指定されている。

一面に梅の香が漂う、梅苑「花の庭」。

東風吹かば 匂いおこせよ梅の花 あるじなしとて 春を忘るな

「御祭神の菅公が無実の罪を着せられて太宰府に左遷される際に詠んだ歌です。“梅の花よ、主人がいないからといって春を忘れてはならないぞ”と、菅公は梅に語りかけます。菅公が亡くなり4年後に、京都から太宰府に「飛梅」が伝わったという故事があります。主人の言いつけ通り境内の梅は今年も春を忘れず、花の京都のスターター役を果たしています」(稲葉編集長)

白梅と紅梅が共演する梅苑「花の庭」。菅公ゆかりの梅約50種、約1500本が咲き誇る。正月明けから咲き始めた梅の見ごろは3月中旬まで続く見込み。
梅苑「花の庭」では3月17日まで毎週末(金・土・日)に限り夜間のライトアップを開催。受付は9:00~19:40、20:00閉苑、入苑料1200円(茶菓子付き)。
梅苑内の茶店で一息。京都の和菓子店「老松」の「菅公梅」と梅昆布茶が供される。入苑料に茶菓子が含まれる。(※掲載内容は変更となる場合があります)

北野天満宮参拝案内

京都市上京区馬喰町
電話:075-461-0005
参拝時間:7:00~17:00(本殿前三光門は閉門時間の30分前に閉門)、参拝自由
※梅苑「花の庭」公開期間(~3月下旬)は入苑時間:9:00~16:00(受付は15:40まで)、1200円(茶菓子付き)
アクセス:JR京都駅から市バス50系統で約35分、北野天満宮前下車
https://kitanotenmangu.or.jp/

【城南宮】しだれ梅と椿の競演

しだれ梅と苔の上に落ちた真紅の椿が見事な景観を見せる。

都の南方に鎮座する城南宮は、都の守護と国の安泰を願って、平安遷都の際に京都の南に創建されて1200年あまりのときが経つ。引っ越しや工事、家相の心配を除く「方除(ほうよけ)の大社」として京都人の信仰を集める。境内の神苑には四季折々の花が咲き、秋は紅葉と彩り鮮やかな景観を見せる。この時季は、社殿の西に位置する「春の山」で150本のしだれ梅が次々に開花し、参拝者で賑わう。木から落ちてもなお美しい深紅の椿の花が、深緑の苔の上に落ち、薄紅色や白のしだれ梅を背景に、ここでしか見られない「競演」を果たす。

城南宮参拝案内

京都市伏見区中島鳥羽離宮町7番地
電話:075-623-0846
参拝時間:境内自由、神苑参拝は9:00~16:30(受付は16:00)
アクセス:地下鉄、近鉄竹田駅下車、徒歩約15分
https://www.jonangu.com/index.html
※「しだれ梅と椿まつり」は3月22日まで。参拝料1000円

【編集長後記】

【東寺】
新幹線の車窓からもよく見える、京都のシンボル、東寺の五重塔。平安京遷都にともなって建てられ、平安京の入り口だった羅城門の東側にあったため、東寺と呼ばれるようになったという。国宝を25件・81点、重要文化財は52件・23603点も保有する東寺は、代表的な寺宝を見るだけでも、あっという間に1日が過ぎてしまう。

今回、特別公開されている五重塔の内部を拝観させて頂いた。塔の中心には、心柱(しんばしら)という長い柱が立つ。この中央の心柱を大日如来(だいにちにょらい)に見立てている。大日如来は密教の中心となる仏。そして、その四方に4体の仏像を配置する。さらに壁面にも多くの仏が描かれており、狭い塔内に曼陀羅の世界が広がり「空海の教え」の一端を感じることができた。

【北野天満宮】
一度はこの季節に行きたいと思っていた北野天満宮の梅苑「花の庭」で、今回ついに梅の開花を見ることができた。今年は暖冬のおかげで例年より早い開花を迎えた梅は、3月中旬まで見ごろが続く見込みだ。春の京都を訪れた際は、桜ももちろんいいが、梅の美しさもこの機会に堪能していただきたい。

今回は参拝がかなわなかったが、古都の南方に鎮座する城南宮も花のお宮として知られる。次回はぜひ、しだれ梅と椿の「競演」をゆっくり鑑賞したい。

取材・文/宇野正樹 撮影:中田昭、小林禎弘、川井聡 写真提供:東寺、北野天満宮

JR東海からのお知らせ

「EXサービス」で東寺時間外特別拝観を申し込む

スマホで東海道新幹線の予約や観光プランの申し込みができるEXアプリの画面例。EXアプリはGoogle PlayとApp Storeからダウンロードできる。

幻想的な東寺の梅のライトアップ。

この春、東寺では史上初の開催となる「梅のライトアップ貸切拝観」が行われる。この拝観はJR東海のツアー限定で参加できる。EXサービス会員限定で購入可能な現地プランの「EX旅先予約」、同じくEXサービス会員限定で購入可能で、新幹線や宿泊に現地プランがセットになる「EXこだわりツアー」に加え、EXサービス会員でなくても購入できる「ずらし旅」の旅行商品としても発売中。また、夕刻の時間帯の国宝「五重塔」初層内部の時間外貸切拝観は「EX旅先予約」「ずらし旅」 で発売中だ。

【春の特別拝観】史上初の開催!東寺 梅のライトアップ貸切拝観
実施期間:~3月10日
旅行代金:1500円(※EX 旅先予約での価格)

【貸切拝観】東寺 夕刻の国宝「五重塔」初層内部 時間外特別公開
実施期間:3月16日~4月14日 ※3月21日、23日は除く
旅行代金:1800円(※EX旅先予約での価格)

限定【切り絵ご朱印】が授与される春の拝観プラン

梅の名所
北野天満宮梅苑「花の庭」観賞と限定切り絵御朱印
実施期間:~3月17日 ※2月25日は除く
旅行代金:2000円(※EX旅先予約での価格)

しだれ梅と椿の名所
城南宮神苑拝観と限定御朱印
実施期間:~3月22日
旅行代金:1500円(※EX旅先予約での価格)

北野天満宮限定切り絵御朱印イメージ。

詳しくは「そうだ 京都、行こう。」特設サイトでご確認ください。
https://souda-kyoto.jp/other/spring2024/

「そうだ 京都、行こう。」30周年キャンペーンで【限定オリジナル御守り】を授与

「限定オリジナル御守り」&拝観券
実施寺院と期間:建仁寺(~3月末)、龍安寺(~4月末)、仁和寺(~5月末)
旅行代金:寺院により異なります。詳しくは「そうだ 京都、行こう。」特設サイトでご確認ください。
https://souda-kyoto.jp/other/30th/

左から、建仁寺(~3月末)、龍安寺(~4月末)、仁和寺(~5月末)。
※画像はイメージです。

※掲載内容は変更となる場合があります。
※開催社寺へのお問い合わせはご遠慮ください。

提供/JR東海

 

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