空前の猫ブームといわれる昨今。でも、猫の生活や行動パターンについては、意外と知られていないことが多いようです。

人間や犬の行動に当てはめて考えて、まったく違う解釈をしてしまっていることも少なくありません。昔から猫を飼っているから猫の性格や習性を熟知していると思っていても、じつは勘違いしていたということが結構あるようです。

そこで、動物行動学の専門医・入交眞巳先生(日本獣医師生命科学大学)にお話を伺いながら、猫との暮らしで目の当たりにする行動や習性について、専門的な研究に基づいた猫の真相に迫っていきます。

今回は、猫の性格を決定づける要因についてお話いただきます。

あねご肌の一味ちゃん(左)と、父さんにべたべたに甘やかされて育ったせいか、それとももともとの性格なのか、超マイペースに育ったつゆちゃん(右)。

あねご肌の一味ちゃん(左)と、父さんにべたべたに甘やかされて育ったせいか、それとももともとの性格なのか、超マイペースに育ったつゆちゃん(右)。

■にゃんこもみんな性格が違う

「うちの子は臆病で、玄関のチャイムが鳴るだけで押入れに逃げ込む」とか「うちの子は天真爛漫」とか「うちの子は気立てが良くて、とでも仲良くできる」とか、「うちの子は気分屋さん」とか、猫を飼っていらっしゃる方は、愛猫さんの「性格」をよくご存知かと思います。

複数の猫を飼っているお宅では、それぞれの猫の性格の違いをおもしろく観察しているのではないでしょうか。

例えば、おっとりした性格の猫さんがトイレに行こうとすると、ちょっと意地悪というかいたずら好きな猫さんがわざと通り道に寝転がってとおせんぼする、なんて光景を見たことがある人もいるかもしれません。「トイレに行きたいのに、あいつがいて通れない、どうしよう……」とおっとり猫さんは困ってしまって、それを見て意地悪猫さんは楽しんでいるようです。

ちなみに、こういうケースの解決策は、トイレをあちこちに置いておくこと。他にもトイレがあると分かっていれば、おっとり猫さんも安心できるでしょう。

■「古い脳」と「新しい脳」

鶏が先か、卵が先か、という話のようですが、猫の行動は性格によって促されるのでしょうか、はたまた猫の行動を見て、こういう性格に違いないと人間が判断しているのでしょうか。

動物行動学的には、猫の行動を決める要因には、まず脳の働きと性格があるといわれています。また、1匹の猫がどんな親猫から生まれ、どんなところで育ってきたかといった、「育ち」や「環境」も、その猫の性格に影響を与えると考えられています。

食欲や性欲、睡眠欲といった、生き残る上で必要な根本的な行動を促しているのは本能ともいえるもので、これは猫という動物の中でも最初から備わっている「古い脳」の働きによる行動です。猫じゃらしなどで猫が遊ぶのは、もとは食べて生きるための捕食行動や攻撃の延長線上にある「古い脳」の働きによる行動といえます。

一方で、年を重ねて遊びに飽きたりしてくると、じゃらしで誘ってもどてーんと寝そべっているだけで、子供の頃のように無邪気に飛びついてくることも少なくなってくるかもしれません。これは、「今は遊びたくないから、動きたくないなぁ」と考えてしまう脳の働きの仕業です。

「あ、見慣れたじゃらしだ」

「毎日飼い主さんからご飯をもらっているから、今頑張って獲物を捕らえなくても大丈夫」

「動くのやーめた」

……となってしまうのは、生活する上で学習してきたことが後天的にインプットされた「新しい脳」による行動です。「うちの子は面倒くさがり」という場合は、そういう性格というよりも、「いつでも食べ物にありつけるから余裕」と学習しているから、無駄に動くことをしないでいるだけなのかもしれません。

そんな怠惰に見える猫さんの肥満が気になるから、もっと運動させたいと思ったら、例えば好物のカリカリおやつなどを部屋の片隅にぽいっと投げて、走らせてみるのも一案かもしれません。

時には本気で襲いかかってくる一味ちゃんに、ぽんちゃんたじたじ。

時には本気で襲いかかってくる一味ちゃんに、ぽんちゃんたじたじ。

■いざとなったら本気で挑む!

「古い脳」が促すもののひとつに、防衛本能があります。子供の頃に恐ろしい目に遭ったような猫は、ちょっとしたことで不安に陥り、過度に自己防衛をしてしまうことがあります。飼い主さんや同居する他の猫との遊びがエスカレートして、最初は楽しかったのに、部屋の隅に追い詰められたことで恐怖を覚えることもあるようです。

追い詰められたら、その場から逃げるか、戦うしか自分の身を守る術はありません。例え相手が大好きな飼い主さんであっても、「怖い!」と感じたら、それこそ死ぬ気で自己防衛の末、攻撃に転じることだってあります。

私のところにも、愛猫さんが尋常でないほど興奮して、恐怖を感じることがある、といった相談がしばしばあります。台所で作業をしていて、ちょっとした拍子に大きな音を立ててしまったところ、愛猫さんがびっくりして、自分が攻撃されると勘違い。飼い主さんに対してうなり声をあげながら台所の入り口で殺気を漂わせて構えているから、飼い主さんは台所から逃げられなくなって本当に怖かった、といった相談もありました。

不安や恐怖は、育った環境などから後天的に覚えた「新しい脳」による感情かもしれませんが、そこから転じて自己防衛のための攻撃は「古い脳」が促す行動のようです。これもやはり、性格というより、脳の働きによって起きる行動といえそうです。

愛猫さんの日々の行動をよく観察していると、古い脳が命じる行動なのか、新しい脳によって選んだ行動なのか、性格のなせるわざなのか、だんだんわかってくるかもしれませんね。

入交眞巳さん

指導/入交眞巳(いりまじり・まみ)
日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)卒業後、米国に学び、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。日本ではただひとり、アメリカ獣医行動学専門医の資格を持つ。北里大学獣医学部講師を経て、現在は日本獣医生命科学大学獣医学部で講師を勤める傍ら、同動物医療センターの行動診療科で診察をしている。

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累計21万部を突破した「わさびちゃんシリーズ」の 第1弾『ありがとう! わさびちゃん』(小学館刊)。

■わさびちゃんファミリー(わさびちゃんち)
カラスに襲われて瀕死の子猫「わさびちゃん」を救助した北海道在住の若い夫妻。ふたりの献身的な介護と深い愛情で次第に元気になっていったわさびちゃんの姿は、ネット界で話題に。その後、突然その短い生涯を終えた子猫わさびちゃんの感動の実話をつづった『ありがとう!わさびちゃん』(小学館刊)と、わさびちゃん亡き後、夫妻が保護した子猫の「一味ちゃん」の物語『わさびちゃんちの一味ちゃん』(小学館刊)は、日本中の愛猫家の心を震わせ、これまでにも多くの不幸な猫の保護活動に大きく貢献している。

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