おやつを使った学習
でも、猫はクリッカーがないと学習できないわけではありません。
高度な技を教える時には猫にわかりやすい一定の音がするクリッカーを二次報酬として使うのが便利ですが、クリッカーを使わずにおやつだけを使いながら教えていくこともできます。
基本的な方法はクリッカー使用時と同じで、何かの合図によって行動を指示して、それが成功したら褒めてもらえる、おやつがもらえる、優しくしてもらえるということを学習させるのです。
例えば「ここに飛び乗って」といって椅子をとんとんと指の先で示して、猫が椅子に飛び乗ってくれたら、ご褒美におやつをあげます。
犬と違って猫はおやつをいつもがつがつ食べないので、猫のトレーニングをうまく行なうコツとしては、猫がお腹がすいている時にトレーニングすると良いです。例えば朝ごはんをあげる前など、「これからごはんの時間だ」と猫が期待をしている時が効果的です。
お腹がすいているから猫も頑張ります。朝ごはんを食べ終わってからだと、もうお腹いっぱいだし、ごろんと横になって一休みしたい気持ちの方が勝っているかもしれません。
私が飼っているカイくんは、もともと食いしん坊ですが、ごはん前は特に頭はごはんのことでいっぱいなので、好物のカリカリフードを持って「おいで」の練習をしていました。いまや「おいで」というと、ルンルンと私の方に走ってきます。
また、先代の猫、小太郎はハイタッチが得意だったので、カイくんにもハイタッチを教えました。クリッカーで教えましたが、今もお腹がすいている時は非常にキレのあるハイタッチを披露してくれます。
猫もごはんをもらいながらの人との関わりは大好きだし、学ぶことも大好きですから、遊びの感覚で楽しくトレーニングに参加してくれます。
猫にだって学習能力はあり、トレーニングも可能だということをお伝えしたわけですが、もちろん、障害物競走に出すわけでもないのであれば、芸を仕込む必要はありません。ただ、こうした学習能力を利用して、ある程度のしつけも可能です。
次回は、愛猫にして欲しくないことを覚えてもらう「しつけ」に関してお話をしたいと思います。
指導/入交眞巳(いりまじり・まみ)
日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)卒業後、米国に学び、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。日本ではただひとり、アメリカ獣医行動学専門医の資格を持つ。北里大学獣医学部講師を経て、現在は日本獣医生命科学大学獣医学部で講師を勤める傍ら、同動物医療センターの行動診療科で診察をしている。
■わさびちゃんファミリー(わさびちゃんち)
カラスに襲われて瀕死の子猫「わさびちゃん」を救助した北海道在住の若い夫妻。ふたりの献身的な介護と深い愛情で次第に元気になっていったわさびちゃんの姿は、ネット界で話題に。その後、突然その短い生涯を終えた子猫わさびちゃんの感動の実話をつづった『ありがとう!わさびちゃん』(小学館刊)と、わさびちゃん亡き後、夫妻が保護した子猫の「一味ちゃん」の物語『わさびちゃんちの一味ちゃん』(小学館刊)は、日本中の愛猫家の心を震わせ、これまでにも多くの不幸な猫の保護活動に大きく貢献している。