■人間にも猫にもニオイは大切な情報源
余談ですが、フランスの研究者が、複数の男性に同じ条件で5日間連続で着用してもらった男性の体臭のついたTシャツを誰のものかわからないようにして、女性にそのニオイをかいでもらって、心地よい香りか、不快なニオイかを判別してもらうという実験を行ないました。すると、ニオイをかいだ女性の白血球の免疫をつかさどるある部分の形がTシャツを着ていた男性のものと違うほど、女性は”心地よい香り”としてとらえ、形が似ていると”不快なニオイ”として感じるということがわかりました。
おそらく、 人間は遺伝的に遠い存在を心地よく思って、遺伝的に距離のある者同士の子供を作ることで遺伝子の多様性がうまれ、強い子孫を残すことができるということを本能的に知っているのでしょう。まさに生物の神秘がここに潜んでいます。
ですから、私にとっては素敵な香りに感じる男性でも、他の女性にとってはクサイと感じることがあるということです。遺伝的に近い存在だと、心地よいニオイと感じないことは皆さん経験しているのではないでしょうか。年頃のお嬢さんが母親に「お父さんはクサイから、お父さんの服と私の服を一緒に洗濯しないで!」と言うのは、生物学的には非常に健全ということです。
ニオイの中に紛れた何かを感じ取り、女性は自分の遺伝子から最も遠い存在をパートナーとして選び、反対に遺伝子的に近い存在は忌避するのです。そうやって全く異なるタイプの遺伝子と結びつくことによって、優性な遺伝子をもった子孫を残す。種として生存するための手段なのですね。人にとっても猫にとっても、ニオイはいろいろな情報を提供してくれるものなのです。
入交眞巳(いりまじり・まみ)
日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)卒業後、米国に学び、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。日本ではただひとり、アメリカ獣医行動学専門医の資格を持つ。北里大学獣医学部講師を経て、現在は日本獣医生命科学大学獣医学部で講師を勤める傍ら、同動物医療センターの行動診療科で診察をしている。
■わさびちゃんファミリー(わさびちゃんち)
カラスに襲われて瀕死の子猫「わさびちゃん」を救助した北海道在住の若い夫妻。ふたりの献身的な介護と深い愛情で次第に元気になっていったわさびちゃんの姿は、ネット界で話題に。その後、突然その短い生涯を終えた子猫わさびちゃんの感動の実話をつづった『ありがとう!わさびちゃん』(小学館刊)と、わさびちゃん亡き後、夫妻が保護した子猫の「一味ちゃん」の物語『わさびちゃんちの一味ちゃん』(小学館刊)は、日本中の愛猫家の心を震わせ、これまでにも多くの不幸な猫の保護活動に大きく貢献している。
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