わざわざ遺言を残すのは、財産がたくさんある人の話だと思っている人が多いかもしれません。しかし、遺産を巡るトラブルは、財産の多い少ないにかかわらず起きることがあるのです。遺言により、遺された人がスムーズに相続の手続きを進めやすくなります。
遺言の3つのスタイル
自分の財産の全容をまとめ、遺していく家族にどんなふうに分けてほしいかを伝えるのが、遺言の役割です。
財産を誰にどのくらい遺すのかは、基本的には遺言で自由に決められるのですが、注意点もあります。相続には遺留分といって、一定割合を法定相続人が受け取る権利があります。ですから、遺言がこれを超えた内容になっていると、他の法定相続人が遺留分を請求してくる可能性が出てきます。たとえば、子どもが2人いるのに、長男にだけ相続させるといった内容の遺言の場合は、次男が遺留分を自分の権利として請求するケースもあるということです。
また、遺言は、書けばどんなものでも有効なわけではなく、法律的な効果が認められるためには、満たさなければならない一定の方式があります。
下図にもあるように、遺言には、主に、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つのスタイルがあります。3つのうちで、一番お手軽なのが、自筆証書遺言です。形式や用紙に決まりがなく、立会人も不要なので、いつでもどこでも思い立ったときに作れます。半面、遺言があることを誰も知らなければ、発見されない可能性もあります。自筆というだけあって、全文の手書きが必須で、パソコンなどで作成したものは無効です。
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公正証書遺言は、公証役場に出向き、証人2人以上の立ち会いのもとで作成します。遺言の内容を口頭で公証人に伝え、筆記してもらいます。自筆証書に比べ、手間もお金もかかりますが、原本が公証役場に保管されるので、遺言の紛失や盗難の心配は不要です。
同じ公証役場でも、内容を知られたくない場合は、公証人がチェックしない秘密証書遺言も作成できます。
工ンディングノートのすすめ
財産に関することに限らず、遺していく家族に伝えたい想いがあるなら、エンディングノートが便利です。これは、自分らしい人生のエンディングに向けて、どんな最期を迎えたいのか、自分が亡くなった後、家族にどうしてほしいのかなど、自分の希望や考え方、家族に対する気持ちをつづるものです。特に形式が決まっているわけではないので、自由に書き記すことができます。
法的な効力はありませんが、葬儀のスタイルや呼びたい人のリスト、お墓や死後の供養に関するリクエストなど、亡くなったときのことばかりではなく、その時が来たら延命治療を望むのか、認知症などで判断や意思の疎通ができなくなったときに、介護に対してどう考えているのかなどを書いておくこともできます。
エンディングノートに想いを書きつづれば、人生のフィナーレに対しての自分の考えがきっと整理されることでしょう。また、遺された家族からしても、旅立つ人の想いや希望を知って、かなえてあげられる大切な手掛かりになるはずです。
記入時には、自分の希望が費用面などで家族の負担にならないよう配慮しましょう。
“おひとりさま”になったら
夫婦二人三脚で歩んできた人生も、工ンディングばかりは一緒に、とはいきません。パートナーが先に旅立って、おひとりさまになったら、考えておいたほうがよいことはいろいろあります。
たとえば、一人暮らしでは自宅で倒れても誰にも気付いてもらえない心配があります。高齢者の見守りサービスなどのホームセキュリティを導入したり、家族との同居を検討したり、元気なうちにケアホームへの住み替えをしたりするのもーつの方法です。
亡くなった後に整理が必要なのは、財産だけではありません。親が亡くなった後、誰も住まなくなった家の荷物の処分が大変、というのはよく聞く声です。家財についても、元気なうちに徐々に整理しておくのが、家族への思いやりかもしれません。
ペットを飼っている人なら、ペットの預け先も考えておいたほうがよいでしょう。今、高齢者世帯で飼えなくなったペットが社会的な問題になっています。ケアホームへの住み替えや長期の入院などで飼えなくなってしまったときに備えて、あらかじめ知り合いに世話を頼んでおいたり、老犬ホームなどを手配しておくとよいでしょう。
いつ、その時が来るかは、誰にもわかりません。あるいは、パートナーが遺されるかもしれません。そこで、本文で紹介したエンディングノートの出番です。「もしも」が、いつ起きても慌てないよう、すでに準備できていることや、やってほしいことを書き記しておくと、家族の戸惑いも少ないのではないでしょうか。
※本記事はNPO法人 日本FP協会発行のハンドブック「自分らしく暮らすために 60代から始めるマネー&ライフプラン」から転載したものです。
協力:NPO法人 日本FP協会 https://www.jafp.or.jp/