60代、70代ともなると、多かれ少なかれ体調面での心配事が出てくるものです。これから増えるかもしれない医療費にどう備えたらよいか、公的健康保険から受けられる給付と併せて、自分で加入している生命保険、医療保険の内容を整理しておきましょう。
データでみる医療費の相場
厚生労働省が発表した平成27年度の国民医療費の概況では、65歳以上の人にかかる費用の割合が、全体の約59%を占めています。これを人口1人当たりの医療費で比較すると、65歳未満は約18万円なのに対して、65歳以上は約74万円となり、4倍以上の医療費がかかっていることがわかります。
高齢になるほど医療費が増える大きな理由が、入院の増加です。平均在院日数は、全体では31.9日ですが、65歳以上でみると41.7日になります。
病気別にみると、65歳以上の場合、「統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害」など精神系の疾患が1296日と最も長く、次いで「血管性及び詳細不明の認知症」が381日、「アルツハイマー病」が267日となっています(厚生労働省「患者調査」平成26年より)。
こうしたデータをみると、その金額の大きさに、これからかかる医療費について、不安を感じる人がいるかもしれません。しかし、私たちが加入している公的健康保険には手厚い給付があり、自己負担の金額が抑えられるしくみがあることを知っておきましょう。
まず医療機関や薬局で窓口負担する割合ですが、70歳未満の場合原則3割負担が、70歳以降74歳までは、原則2割負担(昭和19年4月1日以前生まれの人は1割負担)になります。
(C)2018 NPO法人 日本FP協会
健康保険の制度により自己負担は軽減される
75歳になると、それまでの健康保険の種類にかかわらず、すべての人が後期高齢者医療制度に加入します。これによって、窓口での自己負担率は1割で済みます。ただし、現役並みの所得があれば、3割を負担します。
加えて年代を問わず、窓口負担する医療費にも1カ月の限度額があり、それを超える場合は超えた分が健康保険から支払われます。このしくみを「高額療養費制度」といいます。この制度があれば、下の計算例にもあるように、70歳未満の人が大きな手術を受けて100万円の医療費がかかったとしても、多くの場合は1カ月の負担額は9万円以内に収まります。
超過分は、窓口でいったん立て替え、後ほど健康保険に申請することで戻ってきますが、事前に加入する健康保険から認定証を受け取っておけば、はじめから窓口での支払いを上限額までとすることができます。
高額療養費制度による1カ月の自己負担の限度額は、上図のように収入によって、5段階に分かれます。
70歳以上になると、限度額は変わりますが、こちらも収入によって分かれます。区分は、月収28万円以上など窓口負担が3割となる「現役並み所得者」、住民税非課税の「低所得者」、その間の「一般」となっています。
自己負担の上限の金額も、所得区分「一般」の場合で1カ月の外来、入院合わせて一律5万7600円までとなり、70歳未満に比べ大幅に下がります。
さらに70歳以上の場合は、外来だけの窓口負担にも1万8000円の上限(一般の場合)が設けられていて、入院しなくても医療費負担が抑えられるよう、配慮されています。
高額療養費制度には、一定のルールのもと、家族の医療費が合算できる制度があります。これによって、1人ずつでみると上限までは使わなかった月も、家族の医療費を合計して上限を超えると還付が受けられます。
また、直近1年で上限を超えた月が3カ月以上あり、高額療養費の支給を受けると、4回目以降の上限額が引き下げられます。
ほかにも、介護の費用がかかった場合に、医療費と合算して年間の上限額を超えると、超過分が支給される制度もあります。
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