2018年3月末の公的介護保険の要介護(要支援)認定者数は、641万人。他人事といってはいられない介護の問題、いつその時が来ても慌てないよう、公的介護保険のしくみや利用できるサービス、施設について知っておきましょう。
公的介護保険のあらまし
介護を家族だけの問題にせず、要介護者を社会全体で支えるしくみとして、2000年4月から導入されたのが「公的介護保険制度」です。40歳以上の国民全員が被保険者となり、納めた保険料に国庫負担を合わせて、要介護者に介護サービスが提供されます。
提供される介護サービスの内容は、(1)自宅で受けられるサービス、(2)施設を利用して受けられるサービスのほか、(3)バリアフリー改修など介護する環境を整えるサービスがあります。
介護が必要になったら、市区町村に申請して介護の認定を受けますが、その際、要介護者の状態によって、「要介護1~5」と、「要支援1~2」の7段階に分けられます。
介護サービスをどこまで受けられるかは要介護の程度によって異なり、与えられた限度額の範囲で、ケアマネジャーと呼ばれる資格者が、要介護者の状態に合わせたケアプランを立ててくれます。
介護給付は、介護状態になったら誰でも受けられるわけではありません。65歳以上の第ー号被保険者は、要介護状態となった原因は問われませんが、40歳から64歳までの第2号被保険者は、末期がんや初老期認知症など、特定の病気によって介護が必要になった場合のみが対象となることも知っておきましょう。
(C)2018 NPO法人 日本FP協会
実際、介護にはいくらかかる?
実際、介護が必要になったら、どのくらいお金がかかるのでしょうか?
支給限度額の範囲で介護サービスを受けた場合、サービスの1割(または2割)を自己負担しなければなりません。このため、要介護5の人が、仮に1カ月の支給限度額いっぱいの約36万円までサービスを利用すると、うち約3万6000円(または7万2000円)が自己負担となります。
限度額を超えてサービスを利用した場合や、そもそも公的介護保険のメニューにないサービスを利用した場合は全額自己負担になります。
施設を利用する場合、食費、居住費、日常生活費に介護保険は使えません。在宅で介護を行っている場合も同じで、デイサービスなどを利用した場合の食費などは自己負担になります。
自宅で介護を始めるにあたって、自宅の段差を解消したり、ポータブルトイレを購入したりすれば、一時的にその費用もかかります。こうした費用にも、介護保険が使えるのですが、1割または2割の自己負担が必要なのは、月々の場合と同じです。
なお、2018年8月から2割負担者のうち特に所得の高い人については、3割負担となります。
(C)2018 NPO法人 日本FP協会
介護施設の違いと選び方
現在、利用できる主な高齢者向け施設には下表のようなところがあります。しかし日常生活でなじみが薄く、名称も似ていることから、その違いがはっきりしません。自立した人が入居する施設なのか、要介護認定者向けの施設なのか、介護サービスは施設の職員が行うのか、それとも外部の業者が行うのかなどに注目すると、整理しやすいでしょう。
併せて費用負担についても、しっかり確認したいところです。公的な介護施設は、比較的費用が抑えられます。特に低所得者には費用負担が軽減されるしくみがあるので、多くの人が利用を希望するのですが、残念ながらどこの施設もほとんど空きがなく、思うように利用できないのが現状です。
公的介護施設の空きを待っていられなかったり、そもそも公的施設では得られないサービスの質を期待したりする場合に利用できるのが、民間の介護施設です。月額の利用料の目安は、15万円程度からで、施設によって大きな開きがあります。さらにこれとは別に、入居一時金がかかるのが通常です。
住み慣れた街で受けられる介護
今、公的介護保険では「施設」から「在宅」、「地域」へ介護の中心を移す方向に進んでいます。それに伴い、重度の要介護者でも、在宅で介護が受けられる体制が整えられつつあります。
背景には、介護保険制度を維持していくため、急速な高齢化に伴い右肩上がりで増え続ける介護保険の総費用をなんとか抑えたいという国の思いがあります。特に2025年には、いわゆる団塊の世代が後期高齢者となり、日本の高齢化はピークを迎えるといわれています。これを見据えて、制度の改革が急がれているのです。
私たちにとっても、在宅での介護は、施設介護と比較して費用面での負担が少なくなるでしょう。しかし一方で、介護の質の問題が心配だったり、介護する家族の負担が、精神的にも、時間的にも増すおそれがあったりします。
そんな不安や負担を少しでも減らせるよう、全国各地に設置が進められているのが、「地域包括支援センター」です。このセンターには、社会福祉士、保健師、ケアマネジャーが配置されており、地域の住人が気軽に家族や自分の介護に関して相談できるほか、介護予防サービスのメニューを提供してくれます。
医療、介護、住まいに関するサービスが継続的かつ包括的に提供してもらえるので、生活支援のためのサービスを連携して受けられ、住み慣れた地域や自宅で生活し続けやすくなるのです。
親の介護、自分の介護
63歳の娘が92歳の母親を介護している。あるいは、80歳の妻が82歳の夫の介護をしている-そんな老老介護を行う世帯の増加が、問題になっています。厚生労働省の調べによると、在宅介護を行う世帯のうち、介護する側とされる側、どちらも60歳以上の世帯は、実に7割にも及ぶのだとか。核家族化の影響で、高齢者だけで暮らす世帯が増え、若い世代に介護を手伝ってもらえない世帯が増えているのです。
こうしたケースでは、介護するほうの体力も年々衰えてくるため、家族の介護が長引けば、共倒れになりかねないことが心配されています。
老老介護を行う世帯にこそ、ぜひ積極的に活用してほしいのが、本文でも紹介した地域包括支援センターです。ここでは、ケアマネジャーが常駐し、介護の相談にのってもらえます。公的なサポートを上手く活用しつつ在宅での介護を続けられるよう、具体的なアドバイスが受けられます。
ところで、こうした自分の親の介護体験を踏まえて、自分たちの子どもには、介護の世話を掛けたくないと感じている人も多いようです。そのためには、どのような選択肢が持てるのか、施設の情報収集と併せて、お金の面からも、元気なうちに考えておくとよいでしょう。
※本記事はNPO法人 日本FP協会発行のハンドブック「自分らしく暮らすために 60代から始めるマネー&ライフプラン」から転載したものです。
協力:NPO法人 日本FP協会 https://www.jafp.or.jp/