取材・文/坂口鈴香
「食事がおいしいこと」――終の棲家選びにおいては、重要なポイントだ。味覚は個人差が大きいとはいえ、毎日3度食べるとなるとおいしいに越したことはない。
今回は、老後の施設や住まいにおける食事について解説しよう。なお、各施設や住まいがどんなものかは、「有料老人ホームとサ高住の違いは? 『老後の住まい』7種類の違いまとめ」を参照してほしい。
老後の施設・住まい別 食事の特徴
◆特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)
これらは公的な介護保険施設なので、「うちの施設は食事がウリ」と入所者に積極的にアピールしている施設はあまりない。特に、特養は入所希望者が施設を選べる状況ではないので、「食事がおいしいからここに決めた」という声を聞いたことがない(本来はそうあるべきだが、なにしろ待機者数が多いのでそんな贅沢を言っていられないというのが実情だ)。
また老健は病院に併設されていることが多いので、その場合基本的には病院の食事と同じものが提供される。というわけなので、いわゆる“病院食”という印象があるのは否めない。ものすごくまずくもないが、ものすごくおいしくもない、というのが筆者の感想だ。もちろん、食事に力を入れている病院はあるし、老健も同様だ。
◆グループホーム
グループホームは、「認知症対応型共同生活介護」というのが正式名称で、認知症の人が家庭的な環境のもとで日常生活を送ることで、認知症の症状の進行を遅らせて、できるだけ自立した生活を継続できるようにすることを目指す施設だ。食事についても、手伝える入居者は買い物や調理の下ごしらえ、盛り付け、配膳などを職員と一緒に行う。
だから、グループホームの食事は基本的には家庭料理だ。調理するのは職員や、調理専門スタッフで、これらの職員は調理師などの有資格者とは限らない。なお、人手不足で職員が調理をする余裕がないなどの理由で、調理済みの料理を温めて出すだけという施設もある。
◆サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
食堂で食事を提供するサ高住が96%とはいえ、食事の提供は、1日2食だけというサ高住もある。自室にキッチンがついていれば自炊する人もいるし、外食する人もいる。
施設内の厨房で手づくりしているところから、施設でつくるのは汁物くらいで、あとは温めて出すだけというところまで提供形態はさまざまだ。なかには、朝食は和洋食から選べるなど、食事に力を入れているサ高住もあるが、筆者がこれまで試食した限りでは、量や品数は少なめな印象がある。
◆有料老人ホーム
食事の内容や質にもっともばらつきがあるのが、有料老人ホームだ。施設内の厨房で調理しているホームは多いが、自社で運営している場合と、外部業者に委託している場合がある。入居時自立型のホームだと、自炊をする入居者も少なくない。
食事のおいしさをウリにしているホームも多く、郷土料理や「○○の日」にちなんだイベント食があったり、焼き立てパンのバイキングをしたりと、さまざまな工夫を凝らしている。さらに複数のメニューから選べたり、朝食は常に和洋食を用意していたり、日替わりメニューのほかにアラカルトを用意していたりするホームもある。家族も入居者と一緒に食事を楽しむことができるホームも多い。
食費はどれくらいかかる?
特養と老健には基準費用額が設定されている。基準費用額は1日1,380円、月に(30日として)41,400円だ。さらに世帯年収によって、負担額の上限がそれぞれ日額300円、390円、650円と3段階に分けて定められているので、該当する入所者はそれ以上負担することはない。
グループホーム、サ高住、有料老人ホームの場合、だいたい月に5万円~6万円が主流だ。サ高住、有料老人ホームは、朝食・昼食・夕食それぞれの料金が決められていて、食べた分が請求される。朝食500円、昼食600~700円、夕食800~1,000円程度が目安だ。
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以上、老後の住まい・施設の食事の特徴や費用について解説した。
本文では、「常食」について解説したが、ほとんどの施設では「常食」のほかに「ソフト食」(見た目は常食と変わらないが、舌で押しつぶせる程度の硬さにしたもの)、「きざみ食」(食べ物を細かく刻んで食べやすくしたもの)、「ミキサー食」(主食や主菜、副菜をミキサーにかけて、ペースト状にしたもの)など、入居者の状態に応じて食の形態を変えて提供している(サ高住は施設によって対応は違う)。
ミキサー食でも、元の形がわかるように成型しなおすなど、嚥下機能が衰えても食の楽しみが持続するよう力を入れているところもある。親や自分が入居するとしたら、常食が食べられなくなったときのために、これらの食形態についての考え方や取り組みも聞いておいた方がよいだろう。
そして終の棲家を選ぶとき(特に、有料老人ホーム)には、ぜひ試食をしてほしい。筆者はこれまで有料老人ホームの昼食を中心に、多くの試食をしてきた。好みによるところは大きいとはいえ、正直なところ「このレベルの食事を1日3食、365日食べ続けるのは苦痛だ」と思ったホームも少なからずある。その一方で、「こんな食事を毎日食べられる人は幸せだなあ」と思うホームも、また存在する。
次回は、そんな食事の実態について解説しよう。
取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。