文/岩田昭男
■いよいよ100歳時代に突入か
人生100年時代と言われて100歳を超えて生きることが珍しくなくなってきました。統計によると2017年9月15日現在100歳以上の人たちは全国6万7824人で、前年に比べると2132人増えて47年連続の増加となりました。さらに、2017年度中に100歳になった人も3万2097人と過去最多でした。その背景としては医療技術の発達、食事管理の徹底、フィットネスなど継続的な運動をするようになったなどの影響が考えられます。今後もこの100歳人口は大きく膨らんでいくとみられていますが、その影響は毎日使うクレジットカードにも確実に及んできています。
これまで人生80年と言われて、サラリーマンは定年になると会社を辞めて年金生活に入るといわれてきました。そのため、われわれ自身も60歳で線引きをし、それを目印にライフプランを作り、貯蓄し老後に備えてきました。しかし、100歳まで生きるのが珍しくなくなると、60歳では、まだ人生の折り返し点を通過したに過ぎないことになります。それなのに、社会の仕組みで、60歳を過ぎただけで人生の終点のような扱いをされるので、様々な矛盾が噴出し、至るところで齟齬が起きるようになってきました。
■60歳が分岐点、天国から地獄に。失敗談の紹介
例えばこんなことがありました。以下は、私のサイト「岩田昭男の上級カード道場」へ寄せられた投稿です。
【Aさん(男性63歳)の場合】
「航空系カードを持って海外出張のたびにマイルを貯めていました。会社の出張などでどんどんマイルが貯まるので、それを特典無料航空券に変え、年に一度、妻と娘を連れて海外旅行を楽しんでいました。ハワイ、グアム、上海と毎年のように行っていたのですが、定年になった途端に出張がなくなり、マイルも貯まらなくなり、その楽しみも失われてしまいました。そうなると父親の権威もガタ落ちです。さらに『航空系カードは持っていても意味がない、年会費が高いから解約してよ』と妻に言われ、家庭内の雰囲気も険悪になりました。今では、私は単なる濡れ落ち葉だと罵られるばかりです。失地回復につながる、家族を喜ばせることのできるカードはないものでしょうか。教えて下さい」
【Bさん(女性71歳)の場合】
「断捨離がはやっていますので、一人暮らしの私も終活を宣言し、身辺整理をしようと、クレジットカードの整理を行いました。後に残される親族のことを考えてカードと言うカードはきれいさっぱり廃棄したのです。これでスッキリあの世に行けると思ったのですが、私はネットショッピングが好きでしたから、翌日から困ってしまいました。一応代引きで注文できるようにしたのですが、代引きは宅配便が来るのを家で待っていなければなりません。その拘束が苦痛になったのです。やっぱりクレジットカードに勝るものはないと考えて、新たにクレジットカードの申請をしました。ところが1週間もたたないうちに拒否の回答です、年齢が行き過ぎているのが理由だろうと思いました。晩年の唯一の楽しみであるネットショッピングの便利さを取り上げられて、私はすっかりしょげてしまいました。急に老け込んだようにも思いました。断捨離とか終活とか、そういった流行の言葉に惑わされたことを本当に後悔しています。何かよい方法はありますか」
【Cさん(男性60歳)の場合】
「サラリーマン生活を通じて、ある銀行系カードを持ち続け、一般カード、ゴールドカード、そしてついにプラチナカードまで上り詰めました。さぁこれからがんばるぞと思った矢先に定年になりました。プラチナカードの年会費は5万円ほどですが、年金がもらえるまでには5年もあるので、その間の年会費の支払いはとても負担に思えます。いっそのこと年会費無料のカードに変えたほうがいいのかとも思いますが、名刺がなくなった今では、飲み屋に行ってもホテルにチェックインしても自分のステイタスを証明するのにプラチナカードが有効なのです。そういう意味ではこのカードを今手放すと、今まで築き上げてきた自分がいなくなってしまうようで不安です。もっと年会費の安いプラチナカードと言うものは無いのでしょうか。どうぞお知らせください」
以上のような投稿がありました。マイルがお父さんの権威を裏付けていたのに、定年でそれがなくなった途端、大変辛い思いをされましたね。また、ネットショッピングが簡単にできなくなったと言うご婦人にも同情いたします。最後の方は年金生活で5万円の年会費負担はやはり重荷ではないでしょうか、何とか別の方法を考えないといけませんね。このように、定年後には思いもよらなかった難題が突然天から降ってくるようです。それまで描いていたプランが、一瞬にして、こっぱみじんになってしまうということもあり得ます。
そして、いちど失敗すると取り返しがつかないのが60歳過ぎてからのカードライフと言えるでしょう。そんな失敗をしないためには、早め早めに準備することが大事です。60歳になってからでは遅いのです。クレジットカードが自由に作れる会社在籍中の50代から始めなければなりません。50歳なったら定年後に向けての準備に入るようにしてください。
■人生100年時代を迎えて自分に合ったカードを選び直す
それではどうすればよいか。考え方を変えてほしいのは、まずカード会社です。カード会社は相変わらず20代30代の若者を取り込もうと必死で毎週のようにキャンペーンをやっています。というのも若者なら60歳の定年までカードを使ってくれるから長い間商売ができると見ているからです。しかし、その力を60歳以上の人たちにも少し向けてほしいのです。とくに65歳以上になると、とたんに新規入会が難しくなるといわれています。その現状を変えてほしいのです。リスクは高まるでしょうが、80歳くらいまではラクラクと入会できるようにならないでしょうか。人生100年の時代なのですから。
利用する側では、これまではたくさんカードを使ってポイントを貯めて得しようと還元率第一で行こうといわれてきましたが、60歳をすぎたら、傷害保険やコンシェルジュの充実を重視した方がよいでしょう。
定年後のカード選びとしては、一般には、還元率よりも年会費無料のものを選んだ方が良いと思います。少しでも年金生活の負担にならないようにしておくこと、これが1つのコツでしょう。
次回からはどんなカードをどう選ぶかを詳しく述べていきたいと思います。2枚持ちにすべきか、今持っているカードで残すべきカードは何か、スマホをどう組み合わせていくか、ポイントサービスは利用すべきかなど様々な疑問に答えていきたいと思います。
文/岩田昭男
消費生活ジャーナリスト。月刊誌記者などを経て独立し、流通、情報通信、金融分野を中心に活動する。とくにクレジットカードについては30年の研究歴を誇るレジェンド的存在。