文/岩田昭男

■クレジットカードは信用だ

クレジットカードのクレジットとは信用を意味しています。信用とは、過去の業績や実積を評価して得られるものです。クレジットカードの場合は、毎月の支払いの実績、つまり、いくらの利用金額があり、それを期日までにきちんと払っているかどうかで評価されます。そのため、カード会社は事前に利用者の職業と年収を見て、返済能力のリスクを把握しています。

月々の焦げ付きを怖れるカード会社にとって、毎月決まった収入があって、その範囲内で家計をやり繰りしているサラリーマンこそ、最も好ましいグループといえます。そういう人なら、返済に困る事はないと考えて、クレジットカードを積極的に発行してくれます。

ただし、サラリーマンの多くは、60歳(最近は65歳もあり)で定年ですから、それ以降は、高い評価は通用しなくなります。リタイアした後は、定期収入のあてがなくなりますから、いくら年金がもらえるといっても状況は悪くなります。それまでは甘い顔をしていたカード会社が、急に冷たくなって、厳しいことを言い出すのはこうした背景があるからです。勤め先のバックアップもなく、定期的な収入もなくなった高齢者は、信用力の低い人物とみなされる可能性が高いのです。

ですから、リタイアした後に、「断捨離」や「終活」の掛け声に乗って身辺整理をしようと、クレジットカードを解約したりすると、二度とカードを作れなくなります。そうした事情を知らないために、リタイアした多くの人がトラブルに巻き込まれています。この連載の第1回目に紹介したBさんがまさにそうでした。

■終活でクレジットカードを勇んで「捨てた」女性

一人暮らしのBさんは70歳になったのを機に、持っていたクレジットカードをすべて解約したといいます。自分が死んだあとに残される親族に余計な面倒をかけないようにと考え、カードというカードをきれいさっぱり廃棄したのです。

Bさんは「これでスッキリあの世に行ける」と思ったのですが、いざクレジットカードがなくなってみると、それまでは当たり前にできていたことができなくなり、困り果ててしまったそうです。

例えば、楽天市場で化粧品を購入していましたが、クレジットカードがなくなったため、カード払いができなくなってしまった。そこで仕方なく代引きに換えたのですが、配達される時間に自宅にいないと化粧品を受け取れない。一人暮らしで外出することが多かったBさんにとっては相当なストレスだったようです。

リアルの買い物でもクレジットカードを使っていたので、カードがなくなると、現金の取り扱いに戸惑い、不便さを感じました。常に財布にお金を入れておかなければいけないので、ATMに行く回数も増えて、これも重荷になっているといいます。

このようにBさんは、改めてクレジットカードの大切さを知ったわけです。そして、もう一度クレジットカードを持ちたいと思って申し込んでみたそうです。ところが、なかなか審査を通らない。

「70歳を過ぎた年金暮らしのおばあさんには、クレジットカードを発行してくれないのでしょうか。断捨離とかの言葉に惑わされてクレジットカードを解約してしまったことを本当に後悔しています。何か良い方法はないかと思い、ご相談させていただきました」
Bさんの投稿はこんなふうに結ばれていました。

■デビットカードなら誰でも簡単に持てる

リタイア後に、家族や親戚に迷惑をかけたくない一心で、クレジットカードを解約してしまうと、改めてクレジットカードを持つのは難しくなります。カード会社が、年金生活に入った人の審査をより慎重に行うからです。

しかし、だからといって、クレジットカードの代わりになるものがあればよいのですが、投稿のあった2013年当時は全く思いつきませんでした。

それから2カ月ほど経って、そのご婦人が千葉県で開催された私の講演会に参加されたので、終わってからゆっくり事情をお聞きしました。やはり一番困っているのがネットショッピングができなくなったことでした。「生きがいだったのに突然取り上げられたので心に穴があいたようです」と、すっかりしょげていらっしゃいました。もう一つがカードを申し込んでも審査に通らなくなってしまったことで、こちらも悩みの種とおっしゃっていました。

私はコンビニで品物を預かってもらう「コンビニ受け取り」など色々なアドバイスをしましたが、どれも決め手になりませんでした。これでは万事休すだと諦めかけた時です。少し前にプレスリリースで見た新しいカードのことを思い出しました。

三菱UFJ銀行が新しくデビットカードの発行を始めたと言う記事でした。欧米で広まりつつあったデビットカードは、クレジットカードと違って預金口座から即時に代金を引き落とすカードでした。口座を作れば審査なしにカードを利用することができるのが利点です。さらに新しくVISAのブランドがつくので、世界3900万カ所の店で利用できるのが特色でした。当然ネットでも買い物ができました。

「デビットカードはどうでしょうか」と私が思い切って尋ねたところ、ご婦人は、キョトンとして「何のことですか」といいました。当時は日本人のほとんどがこのカードのことは知らなかったのです。

「銀行が発行するカードで、即時決済ですから借金にはなりません。それに、審査なく持てますから便利ですよ」というと、
「そう?」と彼女は関心なさげでした。

そこで私が「Visaがついているのでネットショッピングもできますよ」というと、彼女はさっと顔を上げて、
「楽天も使えるのかしら」と興味を示しました。

「大丈夫ですよ、楽天だってYahoo!だって、何だって」
というと、急にニコニコして、
「何てカードでしたっけ、そのカード」
とご婦人が聞いてきました。

「デビットカードです」
「ラビットカードって?」
「いや、デビットカードです」
「デビット? 変な名ね」

結局最後までご婦人はデビットカードという呼び名にこだわっていましたが、それでも、いままでの悩みが吹っ切れたように晴れ晴れとした顔になって、「ちょっと銀行で聞いてみます」といって出て行きました。

それから3カ月してメールが来ました。「デビットカードを手に入れました。毎日快適に暮らしています。ネットショッピングってほんとうに素敵ですね。ありがとうございました」

私のアドバイスが誰かの役に立ったとはっきりわかったのはそれが初めてでした。ご婦人はこれからデビットカードを使って以前のように自分のやりたいことをやり、残りの人生を楽しく過ごされるのでしょう。ああ、良いことをしたと私は思いました。こんなことがあるからこの仕事は楽しいのです。

次回は、シニアにおすすめのデビッドカードを紹介します。

文/岩田昭男
消費生活ジャーナリスト。月刊誌記者などを経て独立し、流通、情報通信、金融分野を中心に活動する。とくにクレジットカードについては30年の研究歴を誇るレジェンド的存在。

 

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