取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆

“ちっちゃな家”で定評のある建築家は、今、16時間断食を実践中。豚カツも登場する朝食が一番のご馳走、活動の源泉だ。

【杉浦伝宗さんの定番・朝めし自慢】

前列中央左から時計回りに、ご飯、たくあん、おぼろ豆腐(木の芽)、蕨わらびのお浸し(鰹かつおぶし節)、豚カツ(千切りキャベツ)、ミニトマト、スナップエンドウのソテーとポテトフライ、味噌汁(浅あさ蜊り ・青あお葱ねぎ)。豚カツには神奈川県産の銘柄豚肉“やまゆりポーク”を使用。赤身の中に脂肪が入り込んで柔らかく、旨味とコクがある。とりわけ、豚カツにすると美味だという。

杉浦家では、4年ほど前から味噌を手作り。1月に仕込んで11月まで寝かせるとその年の新味噌が食べられる。写真は2年物。

「16時間ダイエットのお陰で、朝は“王様の食卓”です」と杉浦伝宗さん。6年前に増築した“離れ”と住居を結ぶ、森の中の散策路のような渡り廊下で朝食を摂る。庭には風車があり、遊び心いっぱいだ。

建築家の杉浦伝宗さんは、狭小住宅の魔術師として知られる。敷地10坪前後の家を自ら“ちっちゃな家”と名づけ、この20年間で150件ほど設計してきた。

そんな杉浦さんの自宅は、東京近郊の丘陵地に立つ。昭和54年、26歳で結婚した時に建てた家だ。

「傾斜地を造成せず、それを生かした鉄骨造りのガラス箱のような家です。40年経って樹木が育ち、家も“育って”くれました」

四季折々の自然が楽しめる設計は、“ちっちゃな家”に必ず植える樹木にも通じよう。自然と共生する家が、杉浦さんの真骨頂だ。

昭和27年、愛知県に生まれた。中学生の頃までは、大工さんになって家を建てるのが夢だった。高校に進学して土木に興味を持つが、親の勧めで東京理科大学建築学科に進む。大高( 正
人)建築設計事務所を経て独立。昭和62年には建築家の登竜門といわれる吉岡賞を受賞。以来、“ちっちゃな家”シリーズを始め、主に住宅設計を手掛けてきた。

著書に『それでも建てたい‼ 10坪の土地に広い家』(講談社・品切れ)や『ミニ書斎をつくろう』(メディアファクトリー新書 電話:0570・002・001)がある。前者は「透ける、兼ねる、抜ける」の空間3原則を使って、狭い土地でも広々と住める家を紹介。後者は1畳分のスペースに、1万円の予算で作るミニ書斎を伝授する。

16時間ダイエット

子供たちは独立し、今は夫婦ふたり暮らし。60歳を過ぎた頃から百合子夫人の提案で“16時間ダイエット”を実践しているという。

これは“16時間断食”ともいわれ、16時間食べない時間を作るというものだ。つまり、1日2食である。

「朝は5時頃に起床。犬との散歩の後、朝食は午前7時頃です。その後、午後3時か4時頃に外で昼食を済ませ、それ以降、翌日の朝食まで固形物は摂りません。昼食までの8時間の間は特別な食事制限はないので、朝食には豚カツや天ぷらなどの揚げ物料理も並びます。いわゆる今までの夕食メニューが、朝食に登場するんです」

16時間ダイエットを始めて、朝食が旨い。ご飯は茶碗に2杯が普通。近在の農家が作る野菜を購入しているので、これらがまた美味。体重は2kgほど落ち、体調はすこぶる良好だ。ただし、夜の会食もあるので、16時間ダイエットにはゆるやかに対応。夜はビールも楽しむし、少しお腹が空いたなと思えば牛乳を飲む。

「体が16時間ダイエットのリズムに慣れているので、早起きになりました。出勤までの間に『
64工房』でひと仕事します」

『64工房』とは、64歳で始めた木工の工房だ。中学生時代の夢をもう一度、自分の手でモノ作りを楽しむための拠点である。

64歳で企画した『64工房』では、手作りの楽しさを伝えたいと木工教室を開催。伐採された木を使って、天然木のコーヒーテーブルや小さな椅子などに挑戦できる。木工教室の開催予定/9月9日(日)、10日(月)季の庭 神奈川県川崎市麻生区岡上1462-2電話:090・3685・7238

 

木工仕事の後の楽しみはビールで、地元の無農薬果実を使った「岡上エール」を愛飲。左から、ゆず、トマト、ブルーベリー、夏には甘夏も登場。深いコクと香りがある(蔵邸ワインスクール 電話:050・3568・2020)。

 

動・植物好き、人間好きが集う『季(とき)の庭』を開園しました

7年前、自宅から400mほどの地に原野を入手した。15mほどの高低差がある傾斜地で、広さは
300坪ほどだ。

「私は休日だけですが、家内は雨の日以外は毎日のように半畳ずつぐらい開墾し、やっと夫婦合作の『季の庭』が生まれました」

季節の花々が咲き誇る『季の庭』。800種の草木が植えられ、バラだけで150株100種類。「一年中開放していますので、ご自由にお楽しみください」と杉浦夫妻。夏季には多彩な百合の花が咲き競う。季の庭 神奈川県川崎市麻生区岡上1462-2電話:090・3685・7238

その開墾地に、5年ほど前から少しずつ樹木や草花を植えたのが、『季の庭』の始まりだ。それらが育って美しい花をつけ、2年前からオープンガーデンとして一般公開。下方はバラの庭、上方は野草の庭で、その境界をサクラやコナラなどの落葉樹が彩る。『季の庭』の一角には昨年2月、太陽光発電のコミュニティハウスが完成。『64工房』やギャラリー、ペットのトリミングサロンがある。

コミュニティハウス(写真右奥の階段のある建物)1階に『64工房』、2階にギャラリーや長女が営むトリミングサロンがある。庭のウッドデッキや椅子などは、すべて廃材を利用した杉浦さんの手作りだ。

『季ときの庭』には自作の木工作品を展示するギャラリーがある。希望者には販売(約7000円~)もしている。

自宅の庭で兎や鶏を飼っていたこともあるという杉浦さんは今、巣箱はもちろん、庭に動物が来る仕掛けをさまざまに考えている。

「動物好き、植物好き、人間好きが集うオアシスを作りたい」

と杉浦さんがいえば、「アメリカの園芸家、ターシャ・テューダーの庭が目標です」 と妻の百合子さん。日々、進化し続ける『季の庭』に、リタイア後の夢を託す。

健康法は愛犬ルイとの早朝散歩。午前6時頃から、起伏のある裏道を40分ぐらい歩く。ルイはビアデットコリーで、10歳の雄犬だ。

取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆

※この記事は『サライ』本誌2018年8月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。

 

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