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【夕刊サライ/川合俊一】ニューヨークへ、画家リロイ・ニーマンに会いに行く!(後編)(川合俊一の暮らし・家計コラム 第7回)

夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。火曜日は「暮らし・家計」をテーマに、川合俊一さんが執筆します。

文/川合俊一

前回に続き、僕がいちばん好きな画家であるリロイ・ニーマンとニューヨークで会うお話です。

リロイ・ニーマンは、1921年、アメリカ・ミネソタ州の州都であるセントポールで生まれました。早くからイラストレーターとして人気を得、ファインアートに活動の場を移してからアーティストとしての名声を確立し、アメリカの国民的な画家となりました。

若くして成功したこともあって、相当なお金持ちでしたね。自宅は、ニューヨークのセントラルパークに近いマンションの最上階。そこからは、セントラルパークの大きな池が見えました。

僕が会ったときは、すでに70代だったと思いますが、昔のロールス・ロイスに乗っていたりして、若々しく、すごくおしゃれなおじいさんという印象でした。

リロイ・ニーマンはメジャーリーグ・ヤンキースで活躍していた松井秀喜選手の打撃シーンを描いていて、アクリル画が2004年にニューヨークで競売かけられたというニュースもありましたね。

彼のスタッフとともに4、5人で会い、ひと通りおしゃべりをして、もうそろそろ終わりという雰囲気になったときです。リロイ・ニーマンが

「ところでお前はオレのどの絵がいちばん好きなんだ?」

と聞いてきました。

その答えは、前回の話を読んでいただいた方ならわかるでしょう。当然、

「シャンパンの栓を抜いた絵がいちばん好きです」

と答えました。

僕が初めて見た彼の絵であり、あまりにも欲しくて、無謀にも自分で描こうとした絵です(笑)。

この答えを聞いた彼は、スッと顔色が変わりました。そして、「お前はオレのことを調べたのか?」と、さらに聞いてきたのです。
調べたりはしていないと言うと、「ちょっとついて来い」と、自宅とは別の場所に行くことになりました。

行った先は彼のアトリエでした。すると、アトリエには、縦横数メートルはあろう巨大なキャンバスが置いてあり、その上にはシャンパンの絵が描いてあったのです。

「これですよ、僕がさっき言ったのは!」

と興奮して言うと、

「いや、この絵はお前が見た絵とは違うんだ」

と彼。

確かに、よく見てみると、その大きな絵は描きかけで、さらに風景の中にエッフェル塔などがあり、僕が知っているシャンパンの絵とは違うようでした。

「実は、オレも自分の作品の中で、お前が見たというシャンパンの絵がいちばん好きなんだよ。でも、あれは誰かの手に渡ってしまっていて、いまでは居場所がわからない。そこで、自分用にまた描き直しているいるんだ」

と笑顔で語ったのです。

今度は、僕がビックリする番でした。あまりにも驚いてしまったせいで、

「あの絵、欲しかったんですけど高くて買えなかったんです。だから、自分で描こうとしたんですけど、できなかったんですよ」

と、思わず本人にしゃべってしまいました。

すると、彼は、僕をバカにすることなく、なんと

「描き方のコツを教えてやるよ」

と言い出したのです。

そこで、本邦初公開、本人から直接聞いた、リロイ・ニーマンの絵の描き方の秘密をお話ししましょう(もしかすると、アメリカでは知られていることかもしれませんが……)。

3色で塗ったベースから描きたいものが見えてくる

彼によると、まず、絵の「ベース」を作るのだそうです。そのベースというのは、キャンバスを3つの色で塗り分けることです。色と塗る面積は、その日の気分。原色を使ってもいいし、何種類も混ぜた色でもOK。彼曰く、

「3つの色は気にするな」。

実際に、彼はいろんな色を混ぜて作っていました。それを、塗る面積も好きなように、キャンバスに塗りたくる。

そうやってベースを作ると、そこから自分が描きたいものが見えてくるんだそうです。その描きたいものをベースの上に重ねていくというわけです。輪郭は一切描きません。

この説明を聞いて、いろいろと納得できることが多かったのを覚えています。彼の絵に、真っピンクのホテルが描かれている作品があるのですが、あれは、おそらくベースのピンクを生かしたのだろうと推測できます。

また、海の絵で、ところどころ赤がにじんだりしていて、海の夕景が絶妙に表現されている作品があるのですが、それはベースを赤にしてその上に海を描いたのだろうと思います。

こうしたユニークな描き方が、彼の作品の独特な感覚、オリジナリティーにつながっているのでしょう。

あるいは、もしかすると、あまりにも作品を描きすぎてしまったために、こうした描き方に至ったのかもしれません。彼の作品は、おそらく何万点にものぼると思われます。考えられるモチーフはほとんど描いてしまっているでしょう。そこで、自分でおもしろがれるようにするために、あらかじめ描くものを決めず、インスピレーションに任せるようになったのではないでしょうか。

何万点もある作品の中でいちばんのお気に入りが一致し、本人と同じように、それを自分用に描こうとした僕が言うのだから、あながち間違いではないのでは、と考えています(笑)。

僕は、すっかりリロイ・ニーマンに気に入られたようでした。

「また、ニューヨークに来い。そしたら、お前の絵を描いてやるよ。1枚はセントラルパークで子供と遊んでいる様子。もう1枚は、ビーチバレーをやっているところだ」

とまで言ってくれたのです。これには、周りのスタッフも驚いていましたね。

結局、その約束は果たされることはありませんでした。

僕はその後しばらくニューヨークに行くことはなく、彼は2012年に亡くなってしまったのです。91歳だったそうです。

思い返せば、もう一度ニューヨークへ行っておけばよかったと、心の底から後悔しています。

文/川合俊一(かわい・しゅんいち)
昭和38年、新潟県生まれ。タレント・日本バレーボール協会理事。バレーボール選手としてオリンピック2大会に出場(ロサンゼルス、ソウル)。

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