夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。火曜日は「暮らし・家計」をテーマに、川合俊一さんが執筆します。
文/川合俊一
ニュースやワイドショー、バラエティーなど、生放送のテレビ番組のコメンテーターは、長く続いている仕事のひとつです。でも僕の場合は、珍しいと思うのですが、コメンテーターよりもキャスターの仕事が先でした。キャスターとは、簡単にいうと番組の司会です。
バレーボール選手として現役を引退した翌々年(1992年4月)から、日本テレビの『独占!!スポーツ情報』という番組のスポーツキャスターを務めました。それが、1999年3月まで8年間続きます。
キャスターは大変な仕事です。コメンテーターとはまったく違う仕事だと僕は思っています。
コメンテーターは自分の経験に基づいて何らかの意見を言えば、その役目を果たすことになりますが、キャスターが自分の話を長くするのはよくないこと。キャスターには、ゲストやコメンテーターの意見をうまく引き出す“振り”が求められます。そのうえで番組をスムーズに進行するのが最大の仕事です。
そのために、出演するゲストやコメンテーターのバックグラウンドや、現在のお仕事の内容、考え方などについて、事前に調べて知っておく必要があります。番組の打ち合わせも、コメンテーターなら番組前の1時間くらいで済みますが、キャスターだと3時間くらいかかります。それでいて、自分の意見を言う時間は限られるし、いろいろと気を使わなければいけないので、結構、ストレスが貯まるんですよね。
いちばん気を使ったのは、若いスポーツ選手がゲストとして来るときです。テレビでは使ってはいけない、いわゆる「不適切な言葉」がいろいろありますが、当時、若い選手にはそんなことなんて知らない子もいたんですよ。本人にまったく悪気はなくても、「事故」は起きてしまうもの。そうなるとすぐ、テロップとともに、「先ほどは不適切な発言があり……」とキャスターがお詫びすることになるんです。
ちなみに、僕はキャスターをやる前に、少し発声練習をやり、人をおとしめるような発言はしないようになどの諸注意を受けたくらいで放送が始まりましたが、生放送の番組内では1度も「不適切な発言」をしていないはずです。飲み会では「ピー」ってなるような発言が多いかもしれませんが(笑)。
司会者は身を削ってコメントを絞り出す!?
僕の場合、なぜかバラエティー番組の司会をする機会も多くありました(いまでは「MC」というほうがわかりやすいでしょう)。代表的なのは、フジテレビの『こたえてちょーだい!』(2001年4月~2007年3月)、通称「こたちょ」です。
「こたちょ」は、午前中の帯番組だったので、一応、主婦向けの情報番組の体裁を取っていましたが、メインコンテンツは視聴者から募集した体験談や情報をもとにした再現ドラマでした。その内容はというと、嫁姑問題や夫婦の不倫といったヘビーなものが多く……、結構、過激でした。
それが、視聴者の皆さんにはウケていたわけですが、司会は大変だったんですよね。
再現ドラマの後、必ず、司会の僕とゲストが感想を言うんです。当たり障りのないことばかり言っていては、おもしろくも何ともありません。なので、自分の身の回りで実際に起きたエピソードなどを交えて話すことになります。
「僕の知ってる話でも似たようなことがあってね……」
といった感じです。
しかし、長くやっていくうちに、そうしたネタは尽きてしまいます。なにしろ、番組は平日の帯番組で、7年も続きましたから。しかも、再現ドラマのテーマは、嫁姑のイザコザ、不倫、セクハラなどが定番化していきました。
すると、どうなるのか?
同じエピソードは話したくない。しかし、どのエピソードがすでに話してしまったものなのか、自分でもわからなくなってしまい……、大丈夫だと確信をもって話せるのは、放送前日に聞いたネタしかない!
ということで、僕は放送前日の夜、飲んでいるときに聞いた話を、翌日の番組で紹介してしまうことも、かなりの頻度でありました。
何年も前のエピソードであれば、だいたい“時効”が成立しているので、テレビでしゃべったとしても、当事者に影響が及ぶことはそれほどありません(たまにはあるんですけどね)。
でも、最近というか前夜に聞いた生々しいエピソードはそうはいきません。
「僕のまわりでも、いま、結構大変なことになっててさぁ……」
なんて話をすると、前夜に話をした人から、
「あの話、しゃべっただろ!? 絶対、言っちゃいけないって言ったのに!」
といった、抗議の電話が僕個人にかかってくることになります。
そりゃそうですよね。身内のゴタゴタが、リアルタイムに近い形で全国に知られちゃうわけですから。関係者の中には、それに気づいてしまう人も出てくるでしょう。
そうは言っても、番組は毎日続きます。
番組を盛り上げるためには、現在進行形で起きている“事件”であっても、しゃべらざるを得ないんですよね(笑)。
「こたちょ」は、ゲストが2人来るだけで、あとは僕とフジテレビの女性アナウンサーの合計4人で進行していました。
ごくたまに、ゲストが来られなくなったりするケースがあるのですが、そんなときは大変ですよ。僕がゲストの分までしゃべらなくちゃなりません。
ただ、そうした努力(?)の甲斐があってか、番組および再現ドラマはかなりの反響があり、再現ドラマに出ていた俳優さんの中から、その後、普通のドラマに出演する人も出たりしました。今でも、たまに集まって飲んだりする機会があります。
こうして、当時を振り返ってみると、図らずも僕に番組でエピソードを披露されてしまった方々には、大変なご迷惑をおかけいたしました。
この場を借りて、改めて、お詫びと、そして感謝を申し上げます。
文/川合俊一(かわい・しゅんいち)
昭和38年、新潟県生まれ。タレント・日本バレーボール協会理事。バレーボール選手としてオリンピック2大会に出場(ロサンゼルス、ソウル)。