相談を受けた相続問題の専門家・曽根惠子さんは、康太さんに次のようにアドバイスした。

「ご長男はあと10ヶ月すれば20歳になるので、それまで待ちましょう。相続人全員の総意があれば可能です」

康太さんは家族で相談し、この方法を選択した。そして10か月後、20歳になった三男の息子も参加して遺産分割協議書を作成した。実印登録をし、印鑑証明書も取得した。

16歳の長女については、母親である三男の妻が法定代理人になった。こうして、特別代理人を立てるといった余分な手間をかけずに、円満な手続きができたのである。

このケースのように、親より先に子が亡くなり、未成年の孫が“代襲相続人”になるケースは増えている。未成年者が相続するには代理人が必要になるが、母親が相続人ではない場合でも、法定代理人になれるのは1人の子供に対してだけ。未成年の子供が2人以上いる場合は、第三者を法定代理人に立てる必要が生じる。

もし夫が亡くなった場合であれば、妻も相続人になるため子供の代理人にはなれない。この場合、未成年の子どもが2人いれば、2人とも特別代理人が必要になる。

「ちなみに相続税の申告が必要であっても、未分割で申告を済ませ、子どもが成人をしてから正式な遺産分割協議をするというケースもあります。この場合、申告期限から3年以内であれば問題ありません。また、相続税の申告が不要な場合は、何年も未分割というケースもあります。

私が知るケースは、夫が亡くなり、妻と2人の子どもがいて、15歳と12歳だったところ、8年待って遺産分割協議をした事例があります。家庭裁判所に代理人申請をすると、2人の子どもにも財産を分けて管理することになりますが、それよりも母親として夫の財産を管理し、子どもの養育費に宛てたほうが安心だと判断したためです」

未成年の子どもを残して父親が亡くなることは予測がつかない場合もあるが、親より子どもが先に亡くなっていていずれ孫世代が代襲相続することがわかっている場合は、やはり遺言書を残しておくことが必須といえる。

監修・曽根惠子さん
夢相続 代表。PHP研究所勤務後、不動産会社設立し、相続コーディネート業務を開始。1万3000件以上の相続相談に対処、感情面、経済面に即したオーダーメード相続を提案。『相続はふつうの家庭が一番もめる』(PHP研究所)、『相続に困ったら最初に読む本』(ダイヤモンド社)、『相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル』(幻冬舎MC)ほか著書多数。

取材・文/沢木文
イラスト/上田耀子

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