1月24日、犬の園長先生と保護された子猫園児たちとのほのぼの保育園生活を綴った『わさびちゃんちのぽんちゃん保育園』が刊行され、早くも話題を集めている。全編に渡って子猫のかわいい写真が盛りだくさんだが、インターネット書店のアマゾンでは発売3日後に犬本ランキングで1位を獲得。猫好きはもちろん、犬好きからも注目されている1冊だ。
■異種コミュニケーションに留まらない関係
「ぽんちゃん保育園」の発端は、ツイッターを中心に話題を集めた子猫のわさびちゃん。カラスに襲われているところを保護され、父さんと母さんのもとで87日間を生き抜いたわさびちゃんだが、その傍らにはいつも、夫妻の愛犬でゴールデンレトリーバーのぽんず、通称「ぽんちゃん」がいた。
もともと、猫が怖くて、お散歩中に野良猫に遭遇するとびっくりしてしまうぽんちゃんは、わさびちゃんとの出会いをきっかけに、大の猫好きわんこに変身。わさびちゃんが旅立った後、父さんと母さんが保護する子猫たちの面倒を甲斐甲斐しく見てくれた。いつしかその様子からわさびちゃんちでの保護猫たちの飼い猫修行は「ぽんちゃん保育園」と呼ばれるようになった。園長先生はもちろん、ぽんちゃんだ。
猫と犬、猫とフクロウなど、最近、インターネットの動画投稿サイトなどでも「異種コミュニケーション」の動画が人気を集めている。もともと猫(イエネコ)は生活環境に順応しやすい動物だ。特に、多様な社会関係の中で社会性を習得する「社会化期」の生後2~7週齢くらいの子猫は、すぐに新しい環境に順応し、自分を取り囲む人や他の動物とうまく付き合っていく方法を身につけていく。もちろん、社会化はこの期間だけでなく、その後も社会性を身に着けたことで様々な環境変化に応えることができるようになっていくのだ。わさびちゃんちに保護された子猫たちも、生後間もなくしてぽんちゃんという犬に出会っていることで、敵意を見せない犬は怖くないことを学習している。
ただ、そうした異種コミュニケーションの中でも、なぜわさびちゃんちの「ぽんちゃん保育園」がひときわ人気を呼ぶのか。そこにはただ単に「犬と猫が仲がいい」というだけに留まらない理由があるのだ。
■頼もしい園長先生
1)ぽんちゃんは子猫が大好き
もともと猫が怖かったというのがウソみたいに、猫大好きのぽんちゃん。元気な子猫とは走り回って一緒に遊ぶし、体調の悪い子猫のことはそっと側で見守っている。それぞれの子猫の状況に応じてどうすべきか決めるようだ。
2)遊び上手
ぽんちゃんは子猫を遊ばせるのが得意で、自分の尻尾を猫じゃらしにして追いかけっこをさせたり、長い鼻で子猫をつついて遊びに誘ったりする。子猫がお昼寝している間は、ケージの前にぬいぐるみなど玩具をせっせとくわえて運び、たくさん並べて子猫が起きたらすぐに遊べるように準備して待っていることもある。
3)授乳のお手伝い
母さんが何匹もの乳飲み子のお世話をしている時は、ぽんちゃんがミルクスタンド代わりになってくれる。ぽんちゃんの体に吸い口を下にして哺乳瓶を立てかけて子猫をあてがうと、まるでぽんちゃんのおっぱいを飲んでいるみたいな格好で授乳できるのだ。その間、ぽんちゃん微動だにせずじっと子猫を見守っている。
4)ボディケアもしてくれる
生まれて間もない子猫は体温が下がるとすぐに危険な状態になるため、毛の手入れと同時に血液の循環を良くするためにも母猫は子猫をよく舐める。同じことをぽんちゃんがしてくれる。ただし、ぽんちゃんの舌は母猫よりもずっと大きいため、すぐに子猫はびしょ濡れになってしまうのだけれど。
5)子猫の前では決して動かない
大型犬のぽんちゃんは、自分が踏んづけたら小さい子猫が潰れてしまうことをよくわかっている。だから、自分の周りを子猫がちょろちょろしている時は、決して動かないようにじっとしている。母さんが命じたことではなく、ぽんちゃん自らの配慮による行動だ。
6)緊急時にはすぐに報告
体調の悪い子猫がいると、母さんに知らせに来てくれる。わさびちゃんの時は特に、発作が起きると台所にいる母さんのところに走ってきてすぐに来るよう知らせてくれたため、何度も助けられた。
7)母さんの「お願い!」だけで通じる
乳飲み子の保護猫が飼育箱から這い出してしまいそうになると、他のことをしていて手が離せない母さんが、「ぽんちゃん、お願い!」というと、ぽんちゃんはさっと箱のところに行って、鼻で子猫を戻してくれる。母さんの気持ちはいつでも、ぽんちゃんにもしっかり伝わっている。
他にも、ぽんちゃんだからこその愛猫行動、母さんお助け行動がたくさんある。父さん母さんの娘としてのぽんちゃんは、どちらかというとおとぼけ天然キャラなのだが、こと子猫のことになると、しゃきーんとしっかり者の園長先生に変身。保護活動をするわさびちゃんちにはなくてはならない「犬の手」だ。ただ単にかわいいとか、犬と猫の垣根を越えた触れ合いというだけでは終わらないのが「ぽんちゃん保育園」の魅力なのだ。
文/一乗谷かおり
■わさびちゃんファミリー(わさびちゃんち)
カラスに襲われて瀕死の子猫「わさびちゃん」を救助した北海道在住の若い夫妻。ふたりの献身的な介護と深い愛情で次第に元気になっていったわさびちゃんの姿は、ネット界で話題に。その後、突然その短い生涯を終えた子猫わさびちゃんの感動の実話をつづった『ありがとう!わさびちゃん』(小学館刊)と、わさびちゃん亡き後、夫妻が保護した子猫の「一味ちゃん」の物語『わさびちゃんちの一味ちゃん』(小学館刊)は、日本中の愛猫家の心を震わせ、これまでにも多くの不幸な猫の保護活動に大きく貢献している。