父さん母さんの懸命な介護の末、すっかり元気なべっぴん三姉妹に。左からとうふ、きぬ、もめん。わさびちゃんちの長男でんすけと。

父さん母さんの懸命な介護の末、すっかり元気なべっぴん三姉妹に。左からとうふ、きぬ、もめん。わさびちゃんちの長男でんすけと。

■保護猫の中には病気の子猫たちも

平成25年初夏、カラスに襲われ、傷ついた子猫のわさびちゃんを保護したことで知られる「わさびちゃんち」の父さんと母さん。夫妻の献身的な介護の末、87日間を懸命に生き抜いたわさびちゃんが肝臓の病気で亡くなった後も、夫妻はわさびちゃんへの思いを胸に、野良の子猫たちの保護活動を続けている。

現在、里親募集中のせんす&うちわ兄妹を含めて、この3年半で一期生から十九期生まで53匹の子猫を保護し、「ずっとのおうち」となる里親さんを見つけてきた。この他、不妊手術を施したり保護した母猫なども含めると、さらに20匹以上のお世話をしてきたことになる。

たくさんの保護猫たちの中には、健康状態がよくない子猫も何匹かいた。野良出身で、劣悪な環境にいれば、シラミや回虫は当たり前。子猫の場合、そうした虫に血を吸われたり栄養を奪われたりすることで、命にもかかわる事態に陥ってしまうこともある。

わさびちゃんちが活動している北海道では、秋から冬にかけて生まれる子猫は、生まれてすぐに北の大地の過酷な環境に身を置くことになる。この時期に外で生まれた子猫たちは、厳しい北海道の冬の中で、春まで生き永らえることの方が珍しいのだという。

本来は野生動物ではない猫という動物が、「自然淘汰」という悲しい現実に直面させられているのだ。

わさびちゃんちの保護猫の中でも、とうふ・もめん・きぬと名付けられた「豆腐三姉妹」(第七期生)は、交通量の多い道路際の側溝の中にいるところを保護された時、重度の猫風邪を患っていた。もとは、4匹姉弟だったが、保護した時には既に1匹は息絶えていたという。

保護されて、わさびちゃんちへやってきた三姉妹の目は、赤く腫れあがって、ほとんど開けない状態だった。鼻水が固まって鼻も詰まっていて、とめどもなく流れてくる涙で顔の周りの毛は常に濡れた状態だった。

■「病気の子用の保護部屋」での治療

度の猫風邪で痛々しく目を腫らしていた豆腐三姉妹。左からもめん、とうふ、きぬ。

重度の猫風邪で痛々しく目を腫らしていた豆腐三姉妹。左からもめん、とうふ、きぬ。

当時、わさびちゃんちには、わさびちゃん亡き後に最初に保護した一味ちゃんをはじめ、様々な事情でわさびちゃんちの家族に迎えられた猫たちと、里親募集中の保護猫がいた。風邪ひきの豆腐三姉妹を他の猫たちと一緒の空間に入れてしまうと、他の猫たちにも風邪がうつってしまう。

父さんと母さんは、三姉妹のために新しく「病気の子用の保護部屋」を用意。風邪が治るまでそこで集中看護をすることにした。

保護当初は警戒していた豆腐三姉妹だが、威嚇する気力もないほど弱り切っていた。自分たちの状況をよく理解しているかのように、お薬の時間になると素直に母さんの膝の上にあおむけになって、ぎゅっと目をつむって待機してくれた。

「きぬちゃんは、目薬が沁みると、私の顔を両手できゅっと掴んでくるんです。その仕草が愛おしくて、でもかわいそうで…早く治してあげたいという思いでいっぱいでした」(母さん)

夜は病気の子の部屋の子猫たちが淋しくないように、父さんと母さんが日替わりで部屋に入って一緒に寝ていたそう。

「豆腐三姉妹はみんな、私たちの腕に手をまわして、ぎゅっと抱きしめるようにして寝るんです。離れないで、見捨てないで、っていわれているようで……」

と、思い出しながらも涙が出そうになる母さん。

■愛犬ぽんちゃんも子猫の世話に奮闘

開くのもつらそうだった目もキレイに治って、ゴージャスな長毛美猫に変身したとうふちゃん。

開くのもつらそうだった目もキレイに治って、ゴージャスな長毛美猫に変身したとうふちゃん。

もちろん、父さんと母さんは豆腐三姉妹を見捨てるなんてことは決してしなかった。辛抱強く介護した結果、3匹とも見違えるようにきれいな顔になり、本来のかわいい顔と子猫らしい元気さややんちゃさを取り戻すことができた。

父さんと母さんだけではない。夫妻の愛犬ぽんちゃん(ゴールデンレトリーバー)も、病み上がりの豆腐三姉妹の介護のお手伝いをしてくれた。

ぽんちゃんは、わさびちゃんちの歴代保護猫たちをお世話してきた、わさびちゃんちの保育士さん。大型犬ながら甲斐甲斐しく子猫たちのお世話をする様子がほのぼのとしてかわいくて、いつしかわさびちゃんちでの保護猫生活は「ぽんちゃん保育園」と呼ばれるようになった。

父さん、母さん、そしてぽんちゃんに育ててもらった豆腐三姉妹も今ではそれぞれ、一生大事にしてくれる里親さんに家族として迎えられて幸せに暮らしている。

救いきれない命がたくさんあることは、父さんも母さんもよくわかっている。それでも、自分たちにできる限りのことはしたい。懸命に生きようとしている小さな命を見捨てない。父さんと母さんは、今も地道に活動を続けている。

1月24日発売の『わさびちゃんちのぽんちゃん保育園』には、わさびちゃんちが保護した一期生から十九期生までの保護猫たちの軌跡がまとめられている。かわいい写真の向こう側に、外で生まれた子猫たちの厳しい現実が透けて見える。

文/一乗谷かおり

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累計21万部を突破した「わさびちゃんシリーズ」の 第1弾『ありがとう! わさびちゃん』(小学館刊)。

■わさびちゃんファミリー(わさびちゃんち)
カラスに襲われて瀕死の子猫「わさびちゃん」を救助した北海道在住の若い夫妻。ふたりの献身的な介護と深い愛情で次第に元気になっていったわさびちゃんの姿は、ネット界で話題に。その後、突然その短い生涯を終えた子猫わさびちゃんの感動の実話をつづった『ありがとう!わさびちゃん』(小学館刊)と、わさびちゃん亡き後、夫妻が保護した子猫の「一味ちゃん」の物語『わさびちゃんちの一味ちゃん』(小学館刊)は、日本中の愛猫家の心を震わせ、これまでにも多くの不幸な猫の保護活動に大きく貢献している。

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