取材・文/藤田麻希
思想家の柳宗悦(やなぎ・むねよし、1889-1961)は、民衆的工芸品(民藝)という概念を普及させる拠点として、1936年、東京・駒場に「日本民藝館」を創設しました。
同館には、柳の眼で選ばれた、陶磁器、染織品、木漆工品、絵画などの、民衆が用いる日用品を多く収蔵する一方、河井寛次郎、濱田庄司、バーナード・リーチ、芹沢銈介、棟方志功ら、柳と共に民藝運動を牽引してきた、作家の作品も集めてきました。
そんな日本民藝館で現在開催されている「柳宗悦と民藝運動の作家たち」展は、これらの作家の仕事を中心に紹介する展覧会です。
無名の工人が手掛けた日用品の美を称揚することと、名のある作家の作品を称揚することは、どこかで矛盾しているように感じますが、柳宗悦は両者の違いを認めつつ、次のように述べています。
「民藝館同人の作家たちの特質は、その作品の基礎が、何よりも民藝品への敬念に根ざしている点であります。……決して民藝品と無縁ではないどころか、それにあやかり度(た)いという謙虚な気持ちを、いつも失ってはおりません」(柳宗悦「作家の品と民藝品」『民藝』92号1960年、初出)
つまり、民藝運動の作家の根底には民藝品の美しさを認める気持ちがあるため、柳にとって、両者を二分することはかえって不自然なことなのです。誰によって作られたかという区別なく、柳が見出した美しいものを陳列する場が民藝館である、と考えることができます。
さて、今回の展覧会の特徴は、作家の選び方に表れています。日本民藝館の月森俊文さんに伺いました。
「通常、この手の展覧会をやるときは、いわゆる巨匠と呼ばれている5人、河井、濱田、リーチ、芹沢、棟方の作家のものが主で、彼らに続く作家のものはほんの少ししか出ないことが多いです。今回の展覧会は、そういった巨匠以外の作品も多く出そうとしました。ただ、基本的に、展示している作家のほとんどは、柳の存命中に仕事を始めており、柳との直接の面識もあります。その辺りが一つの基準になっています」
展示室には、舩木道忠・研兒、黒田辰秋、柳悦孝、金城次郎、鈴木繁男、岡村吉右衛門、柚木沙弥郎(ゆのきさみろう)らの作品が点在しています。なかには、1980年代に作られた、比較的新しいものもありました。
「一階の一室には、この展覧会に合わせて寄贈していただいた柚木沙弥郎先生の作品を、最初期の作品から近作まで、飾りました。柚木先生は今も活動されておりますが、このように現在活動されている作家を、一部屋使って展示するのは、当館としては珍しいことです」(月森さん)
柚木さんの染布は、さまざまな会場で発表されてきましたが、柳が設計した日本民藝館本館(登録有形文化財)で「民藝運動の作家」という文脈で展示されると、今までとひと味もふた味も違って見えてきます。
著名な作家の作品を自分の目で確かめるもよし、新たな作家との出会いに期待するもよし。幅広い楽しみ方ができる展覧会です。
【柳宗悦と民藝運動の作家たち】
■会期/2017年1月8日(日)~3月26日(日)
■会場/日本民藝館
■住所/東京都目黒区駒場4-3-33
■電話番号/03・3467・4527
■料金/大人1100円(900円) 高大生600円(500円) 小中生200円(150円)
※( )は20名以上の団体
※団体見学をご希望の方は必ず事前にご予約ください。
※障がい者とその介護者1名は割引料金500円にて入館できます。手帳をご提示ください。
■開館時間/10時から17時まで(入館は閉館30分前まで)
■休館日/月曜日
*ただし月曜日が祝日の場合、翌火曜日
■アクセス/京王井の頭線駒場東大前駅西口から徒歩7分/小田急線東北沢駅東口から徒歩約15分
取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』