「やっぱり、私はこのままでいいんだと思えた」
体重が落ち始めてから、夫の態度が変わってきたという。それまでも、家事や育児をサポートしていたが、尚美さん自身を労わり、積極的にスキンシップをとる機会が増えたという。
「夫と私は高校の先輩と後輩という関係なので、基本的に私に対しては優しい。夫は、私が40歳、夫が38歳のときに浮気をしましたが、それができたのも、比較的夫の容姿が整っていることもあります。ゼネコン勤務でお金もありますしね。ウチに生活費として15万円を毎月入れて、家のローンも娘の学費もみんな夫が払っています。私がパートを始めてからも、“老後のお金は心配ないから、尚美ちゃんがいいように使ってね”とも言っており、まあすごくいい夫なわけですよ」
夫はスリムな体型の女性が好きだ。尚美さんは、結婚当時155cm 48kgだった。35歳で娘が生まれて、太り始めてからは、肉体的な接触は全くなかった。
「それなのに痩せ始めてから、手を繋いできたり、腰に手を回してきたりするんです。もう夫婦として体が離れる期間が長いと、男と女というより、子供がじゃれてくるような感覚しか持てなくなる」
寝室は一つでもそれぞれ別のベッドに寝ている。尚美さんが20kgの減量を達成し、下着姿でバスルームの鏡を見ながら、たるんだお腹の皮をつまんでいると、夫がやってきて、誘うようなそぶりを見せたという。
「あれは、2年前、54歳のときでした。“ああ、女に戻れたんだな”と思うと同時に、“違うよな”という感覚もあり、笑って誤魔化して逃げてしまった。でも嬉しかったですよ。でもまた、再開するのも微妙なので、今後も男女の関係になることはないでしょう。女として終わりたくないという揺らぎから始まったダイエットで、女になったら、“女に戻りたくない”という揺らぎも始まってしまった(笑)」
それから2年、夫が誘うそぶりを見せることは、ない。今思うことは「私はこのままでいいんだ」という思いだという。
「努力をして、今の体型を手に入れたから、そう思える。でもほんとに痩せると、男性からホテル込みの誘いはあるんです。中には30代の人もいるんですよ。それはそれで不思議なものです」
おそらく、男性が誘ったのは、尚美さんに自信と慈愛が溢れており、魅力的だからだろう。尚美さんは、「迷いやゆらぎ、このままでいいのかという思いは一生続く、それでいいと思うようになりました」と笑っていた。
それと同時に、最近、夫の過去の浮気の証拠である、相手の女性からのメッセージカードをこっそり捨てた。それで気持ちはスッキリしたと話していた。それから気持ちがリセットされたのか、いつもと同じように生活するうちに、体重は落ちていき、安定しているという。
さらに医師から「いいタイミングで減量した」と褒められた。尚美さんが50歳で減量と生活改善をしなければ、生活習慣病のリスクは高まっていた。発症すれば生活はさらに制限され、医療費もかさむ。それでは尚美さんの求める自由からは遠ざかってしまう。年齢を重ねるほど、健康の重要性を痛感する人は多い。まず何から始めるか、それは人によって違うからこそ、自ら意識したいものだ。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(小学館新書)がある。
