
40代後半から50代半ばの女性が、「新しいことに挑戦」する様子を目にすることが多い。離婚や結婚、移住や家の購入、転職や独立、最近は留学やリスキリング(学び直し)、もそこに加わる。しかし一方で、心身の“ゆらぎ”に悩む世代でもある。更年期による心や体の乱れ、育児や介護やお金の不安、家族のために献身しても“当たり前”と思われる虚しさ。世間からの疎外感を覚える人もいるだろう。“ゆらぎ世代”の女性が感じている“現実”を、25年間に1万人近くのインタビューを行ったライター・沢木文が紹介する。
2025年5月8日、静岡県で詐欺事件の被害届が出された。静岡市清水区に住む30代の男性が、マッチングアプリで知り合った女性から投資の相談を受け、4月中旬から5月上旬までに指定された口座に現金を振り込み、計約1200万円をだまし取られたという。
不特定多数と出会えるマッチングアプリにまつわる事件は多いが、伴侶と出会えるという幸せを手にしている人もいる。
東京23区内に住み、証券会社に勤務する洋子さん(58歳)は、「57歳のときにマッチングアプリで彼ができました。女として終わっていると思っていた私に相手が見つかるとは思わなかった」という。
【これまでの経緯は前編で】
結婚相談所で、強烈なダメ出しをされる
洋子さんは、43歳のときに「会社の制服が似合わない」という見た目の老いに直面。娘のアドバイスを実行し乗り越える。51歳で閉経する5年間の更年期もやり過ごした。
「30歳で離婚してから、娘(現在32歳)と2人で生きてきたんですが、3年前に娘が結婚して家を出たことで、いろんな不安が襲いかかってきたんです。
当時も今も住んでいる家賃11万円のマンションは、1人暮らしには広すぎる。気分転換に家を借り換えようとしたら、断られるんです。提案されるのは定期借家ばかり。いいと思う物件は、正社員として働く親族の保証人を求められたり、国内の緊急連絡先が2人以上必要だったりと、50代は家が借りにくいという現実に直面しました」
家の借り換えは諦め、11万円の家賃を払い続けることにした。一人暮らしで気持ちが落ち込むのは、生活に張り合いがなくなる。食事は出来合いのもので済ませ、掃除や洗濯も最低限になる。
「文句を言いながらも、娘のために家事をすることが楽しかったんだと思いました。1年くらいダラダラ過ごしていたのですが、経済的にも生きがい的にも不安が多いと、出会いを求めて結婚相談所に行ったんです。そのほうが相手に出会うのに手っ取り早いと思ったから。
40代後半くらいの女性アドバイザーが待ち構えていて、服が地味だとか、メイクが古臭いとか、白髪を染めろとか、ダメ出しの嵐でした。さらに、“笑顔がない女性は嫌われる。あなたの顔は怖い”などと言われて、こっちも“あんたの言っていることは、人の尊厳を踏みにじる、クソバイスだ”と椅子を蹴って帰ってきました」
洋子さんは基本的に心優しい性格だ。結婚相談所を出て、駅に着いたら「なんでアドバイザーにひどいことを言ってしまったんだろう」と反省したという。
「50代後半になって、他人に悪いことを指摘されると、心が傷つく。それに売り言葉に買い言葉で返してしまった自己嫌悪。この一件は、結構尾を引いて、ときどき落ち込むことがありました。経済的に不安と言っても、差し迫ってはいません。65歳まで働けるし、退職金もある。“賃貸生活と一人暮らしが不安”程度では頑張る気も起きないんですよね。
気持ちが揺らいだまま1年間を過ごしていたとき、“シニアもマッチングアプリを使っている”という記事を見つけたんです。マッチングアプリなら、ありのままの私でできるし、手っ取り早い。すぐに50代の登録が多いアプリを探して、エントリーしました」
目的はロングタームでの経済不安の解消と、人生の伴侶探しだ。生理的に嫌な人でない限り、受け入れようとしたという。
「私が絶対に譲れない条件は、結婚歴があり、子供がいること。やはりずっと独身という人は、私のようにワガママな性格だと受け止めきれないと思う。子供がいることを条件にしたのは、“他人のために時間とお金を使う”という経験をした証です。私は経済的な不安を解消するための相手を求めているのだから、ケチでは厳しい」
【開始1か月で年下の彼ができ、結婚を前提に同棲中……次のページに続きます】
