
40代後半から50代半ばの女性が、「新しいことに挑戦」する様子を目にすることが多い。離婚や結婚、移住や家の購入、転職や独立、最近は留学やリスキリング(学び直し)もそこに加わる。しかし一方で、心身の“ゆらぎ”に悩む世代でもある。更年期による心や体の乱れ、育児や介護やお金の不安、家族のために献身しても“当たり前”と思われる虚しさ。世間からの疎外感を覚える人もいるだろう。“ゆらぎ世代”の女性が感じている“現実”を、25年間に1万人近くのインタビューを行ったライター・沢木文が紹介する。
今、1972年に連載がスタートしたマンガ『ベルサイユのばら』(池田理代子)がブームになっている。きっかけは、2025年1月に映画版が公開されたことだ。フランス革命を舞台にした不朽の名作は、多くの人を魅了。4月に東京と大阪で行われた応援上映は瞬時に完売、ホテルのコラボルーム、コラボカフェの予約も短時間で埋まった。4月30日からNetflixでの配信も始まるという。
セクハラもパワハラも、心の支えは『ベルサイユのばら』
東京都内の中堅企業に新卒から勤務する典子さん(53歳)は、「仕事に邁進し、恋愛のチャンスを避けてしまった。恋愛しないまま、老いていく可能性に揺らいでいる」と言う。
「転職しないまま社会人生活を終えることも揺らいでいますが、まずは恋愛。全く経験がないままでいいのかと、迷いながらも全く前進できない。年齢とのせめぎ合いというか、迷うことだらけ」
岐阜県で生まれ育った典子さんの転機は、18歳のときに親の反対を押し切って、東京の中堅大学の経済学部に進学したことだ。
「親は“女に学問なんていらない”という方針で、裕福でもない家です。父が“典子の幸せのために金持ちと結婚させたい”と言っているのを聞いてゾッとしました。私を可愛がってくれた祖母にお金を借りて受験し、合格。新聞奨学生になり大学を出たんです。相当の根性がないと、できなかったと思います」
困難に勝てたのは、小学校の図書室で『ベルサイユのばら』という作品に出会ったから。
「主人公のオスカルは、女でありながら、軍隊で活躍しています。剣が誰よりも強く、戦略家としても優秀。さらに、歴史、哲学、語学も完璧で、容姿端麗。そんな物語に浸り、本から顔を上げれば、片田舎の粗末な家に住む私がいる。ここから抜けるには、東京に行くしかないと思い続けたのです」
大学卒業後は経済的に自立し、生活は楽しかった。当時の企業はブラックで、始発から終電まで会社にいるような生活だったが、「ここしか居場所はない」としがみついた。様々な功績が認められ、30歳のときに1か月の休暇を得ることができ、憧れのフランスを巡る旅をした。
「オスカルの領地であるアラスの街にも行きました。感動して嗚咽していたら、現地の女性から“日本人ですか?”と声をかけられました。“あなたのような人がたまにいる。この街が漫画に書かれているんですよね?”と」
典子さんは、その後も仕事に邁進し、34歳のときにその会社では女性初の管理職になる。
「オスカルが革命で死んだのと同じ年齢で管理職になったことに運命を感じました。ただ、上司や部下からのパワハラ、かなりハードなセクハラは酷かったですよ。命令無視などの嫌がらせもされましたし。でもこのようなことは、いずれもオスカルが受けてきたこと。だから私も耐えられました。まあ“そんなもんだよな”という思いもありましたしね」
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