
2025年4月から、65歳までの継続雇用制度(再雇用・勤務延長制度)の義務化と、「高年齢雇用継続給付」の減額が実施される。
「高年齢雇用継続給付」とは、60歳到達等時点に比べて賃金が75%未満に低下した状態で働き続ける、60歳以上65歳未満の人が受けられる条件付きの給付金だ。
2025年3月31日以前なら、15%を限度として支給されるが、4月1日以降の場合、10%に減額される。
直樹さん(61歳)は新卒から勤務し、60歳で定年を迎えた住宅関連会社に再雇用され働いている。「僕は58歳で父になった。僕のように定年間際に親になる人もいるだろうから、この制度の改正で予定が変わる人も多いと思う。子供は可愛いけれど、お金はかかりますからね」という。
直樹さんの人生が変わったのは、56歳のときだ。定年後を見据えて参加したスマホ写真教室で、当時38歳の妻と知り合う。現在は3歳の女の子の父として、雇用延長した仕事や育児に奮闘している。
【これまでの経緯は前編で】
彼女から「お茶を飲んでいく?」と誘われる
写真教室が終わっても、直樹さんとその友達、彼女の3人で作られたグループLINEのやり取りは頻繁に行われていた。1日に何度も動くこともあれば、1週間、全く動かないこともあったという。
「家族のおしゃべりのような感覚でした。すると出張も通勤も楽しくなるんですよね。いい風景や面白い商品を見たときに、写真を撮って送る相手がいるのは幸せなことなんです。そのうちに、彼女から“ここに行かない?”と下町の飲み屋さんに誘われるように。そこは女性だけでは入れない店でした。友達も誘いましたが、“孫が生まれたばかりなので行けない”と断られる。友達は、写真教室には彼の娘と孫のために行っていた。それがわかり、グループLINEとは別に、2人でやり取りするようになったのです」
2週間に1度、週末に2時間程度飲む仲間になったという。彼女に化粧っ気はなく、直樹さんは彼女に惹かれていたが、うっかり手を出して関係が終わることを恐れて、全く下心は出さなかった。
「彼女に触れたいと思った気持ちを叩き潰していました(笑)。あるとき、最初に行った飲み屋さんにまた行きたいと言われた。そこはラブホテル街を抜けていくので、気が進まなくて断りました。だって、酔って下心がバレるのが怖いじゃないですか。そしたら、彼女は自分の家の近くの飲み屋さんに誘ってきた。2時間ほど飲んだ後、“椿がキレイな公園がある”と散歩して帰ることにしたんです」
その公園の前に、彼女の住むマンションはあった。そして、「お茶を飲んでいく?」と言われる。
「終電を理由に断ろうと思ったのですが、ものすごい吸引力の掃除機で吸われているように彼女の家へ。恋人関係になってからの人生はバラ色です。まさか56歳からこんな人生が始まるとは思っていませんでした」
56歳と38歳、18歳差の恋愛は、彼女に離婚歴があることもあり、穏やかに進んでいった。
「お互いに自由気ままに過ごしてきたので、恋人同士のまま関係が進むと思っていたら、交際1年で彼女が妊娠したんです。思い当たるタイミングはお互いにあり、すぐに入籍しました」
婚姻届の承認は、写真教室の先生と、そこに誘った友人に頼んだという。彼女はマンションを引き払い、直樹さんが住む都心のマンションに引っ越してきた。
「僕は持ち家なので、彼女が“もう家賃を払わなくていいんだ”としみじみ言っており、“買っておいてよかった!”と心の底から嬉しかった。一緒に生きる人がいるって、毎日が嬉しいものなんですね」
同時に、心配も増える。39歳の妊娠はトラブルの連続だった。初期に出血があり、彼女は仕事を大幅にセーブ。自宅勤務に切り替えた。大変だったのは、終盤だ。34週でかなりの出血があり切迫早産だと診断され、即入院になった。
「アクティブな人なのに、ずっと寝ているのが辛そうで、毎日のように病院に通っていました。健康な状態で生まれる目安となる正産期の37週まで待ってくれと祈り続けていましたが、35週で容体が急変。緊急手術が行われることになったのです」
幸い手術は成功し、妻も無事で、元気な娘が生まれたと分かった瞬間、直樹さんは貧血で倒れたという。
「娘は1800gなので保育器に入っている。妻も動けず親子3人で入院ですよ。千葉からお互いの両親も駆けつけて、皆で大喜び。こんな瞬間が定年間近にあるんだなと幸せに包まれたことを覚えています」
【定年延長勤務のサバイバルのコツは「すべてを受け入れること」……次のページに続きます】
