家族信託とは財産の管理や運用、そして処分を家族に任せるための制度です。医療の発達により、身体より先に、認知能力の低下が起こることが珍しくない昨今において、家族信託は認知症対策として注目されています。しかし、まだまだ身近な制度とはいえないだけに、どのくらいの費用がかかるのか、また、その相場感はどうなっているのか、家族信託に税金は発生するのかなど、費用面の不安は尽きません。

そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士・中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た幅広い知識や経験に基づき、家族信託を費用や税金の観点からご説明いたします。

目次
家族信託でかかる費用とその相場は?
家族信託でかかる可能性のある税金は?
家族信託の費用を抑えるポイントは?
まとめ

家族信託でかかる費用とその相場は?

家族信託を弁護士や司法書士、税理士など専門家に依頼した場合の費用は、信託財産の種類や価値によりますが、おおよそ、下記のような費用が生じます。

1:コンサルティング費用

家族信託の内容の確認、家族との打ち合わせ等のコンサルティング関係で、相場的には信託財産の額等によって変動します。一般的には30万~100万円程度、または信託財産の1%くらいが目安になるようです。内容的には、家族信託の設計や提案・家族や関係者への説明等が含まれています。

2:公正証書作成費用

信託の契約は公正証書である必要はありませんが、自身で作成すると、将来的にトラブルが起こった際に揉める一因になりかねません。また、盗難や改ざん、紛失等のリスクもあり、公正証書で作成されるケースが多いようです。公正証書の作成は、公証役場の公証人の前で行なわれ、また、その原本も公証役場で保管されるため、上記のリスクは極めて小さくなります。

公正証書にする費用としては、契約書(公正証書)の作成費用で10万~15万円程度、公正証書作成手数料(公証役場にて公証人に支払う手数料)で3万~10万円程度です。

3:登記・登録免許税(信託財産に不動産がある場合に発生)

信託財産に不動産があると、当該不動産の登記を司法書士に依頼するため、司法書士への報酬、並びに登録免許税が課されます。司法書士の報酬は、10万~30万円程度が多いようです。また、登録免許税は不動産価額の1,000分の4相当額を法務局に納める必要があります。

上記のような費用が、かかることが想定されるため、不動産がなくても、費用は高くなりがちです。しかし、家族信託を設定していない不動産賃貸業の方が、認知症になってしまった場合、預金口座が凍結されたり、単独で賃貸契約を結ぶことができず、不動産を売却することもできなくなります。

そうなると、成年後見制度を活用することになりますが、その場合、後見につく弁護士・司法書士に対して、毎月一定の報酬の支払いが後見開始から相続発生まで続きます。

これら報酬面だけを取って考えても、事前に家族信託を設計していくことの方が、費用面では少なくなる可能性があります。家族信託の費用は、将来のリスクへの備えと考えることができるでしょう。

家族信託でかかる可能性のある税金は?

家族信託でかかる可能性のある税金としては、以下の内容などが挙げられます。

1:贈与税

家族信託において贈与税がかかるケースとしては、例えば、委託者以外の人が受益者になった場合です。父が長男に収益不動産の信託を設定している場合に、その収益不動産の家賃を母が受け取るような場合、「父が母に収益部分を贈与した」とされ、贈与税が課されます。その他に、信託終了時の受益者が残余財産の帰属権利者でない場合にも、贈与税(または相続税)が課されるケースもあります。

2:相続税

家族信託においては、委託者兼受益者が亡くなった際に、その信託受益権を取得した人に相続税が課されます。この「取得」には信託契約を終了して帰属権利者がそのまま相続する場合と、信託契約を継続して新しい受益者が相続する場合とがあります。

上記例でいうと、父が亡くなり、長男がそのまま信託受益権を取得すると、相続税がかかります。結果的に、単純に相続をした場合と同じということになりますので、家族信託の設定は、委託者である父が生前の間は効果を発揮しますが、相続税の対策や相続税の節税効果はさほどない、と言って差し支えないでしょう。

3:所得税(住民税)・法人税

信託財産から得られる収入については、受益者が所得税・住民税の納税義務を負います。その受益者が受益権を売却し、売却益が出た場合には、その利益部分に所得税・住民税が課されます(その受益者が法人である場合には法人税が課されることになります)。

上記例で言うと、不動産収入を得ている父が、その受益権を他人に売却して利益を得た場合、その利益について、所得税・住民税が課されます。

4:登録免許税

信託財産に不動産が含まれる場合限定ですが、信託による所有権移転登記及び信託の登記を行なう際に、登録免許税が課されることになります。また、信託が終了した際には、信託財産である不動産を、受託者から引き継ぐ人に、通常の所有権移転登記の登録免許税が課されます(2%)。ただし、一定の場合には、相続による登記と同水準の税率(0.4%)となります。

5:固定資産税

固定資産税は、その年1月1日に不動産を所有している人に課される税金です。不動産を信託財産にする場合、その不動産の名義は受託者になるため、受託者に固定資産税が課されます。

上記例でいうと、父が長男を信託の受託者とした場合、翌年から長男に固定資産税が課されます。賃貸物件の場合には、信託口座内で家賃と固定資産税の入金と支払いが発生するため、長男の自己負担で固定資産税は支払いません。しかし、課税される主体が変更します。

家族信託の費用を抑えるポイントは?

家族信託は成年後見制度よりも費用面では有利ですが、負担がないわけではありません。この費用を抑える方法は、ないのでしょうか。

実は、家族信託の手続きについて、専門家を使わずに自分で行なうことで、費用を抑えることは可能です。専門家に依頼しなければ、コンサルティング費用の部分がカットできるので、家族信託のコストは、交通費や印紙代、公正証書作成にかかる手数料くらいです。そのため、大幅にコストカットすることが可能です。

ただし、注意点としては、まずは自身が家族信託についての知識を習得する必要があります。それでも、やはり家族信託は複雑なため、親族間でのトラブル発生や、不備による無効、親御様の認知症発症後に信託の無効が判明する、などというケースが起こる場合があります。

まとめ

家族信託は、委託者が元気なうちに、自らの意志に沿った財産管理や承継を可能にします。特に処分も含めた自由度の高さは、成年後見制度にはない有効なものであると言えるでしょう。その半面、気軽に使えない費用の問題や、内容や形式的な不備によるトラブルも後を絶ちません。自身で制度を理解すると同時に、専門家をうまく使って、家族信託をご検討・ご活用していただくことを推奨します。

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com

 

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