親子間では、先祖代々から受け継がれた土地や建物などの不動産を、親が生きているうちに受け渡しすることを考えている方や、特定の子どもに不動産を引き継ぎたいと考えている方もいらっしゃるでしょう。例えば、事業用の不動産であれば事業を引き継ぐ子どもに、自宅なら同居している子どもに、などといったことが考えられます。
その場合、名義変更はどうしたらよいのか? 名義変更した場合、どのような税金が発生するのか? できれば子どもが負担する税金は少なくして不動産を引き渡したい等、疑問に感じている方もいらっしゃることでしょう。
そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た幅広い知識や経験に基づき、親から子へ不動産を生前に贈与した場合に必要な手続きや課税される税金、その軽減方法などついてご説明いたします。
目次
親から子へ不動産の生前贈与した場合の名義変更の手続きとは?
生前贈与で不動産の名義変更に必要な書類とは?
生前贈与で不動産の名義変更にかかる税金は?
生前贈与による贈与税を軽減する方法はある?
名義変更しないとどうなる?
まとめ
親から子へ不動産の生前贈与した場合の名義変更の手続きとは?
親から子どもに不動産の生前贈与をした場合、その不動産の所有者の名義を親(贈与者)から子ども(受贈者)に変えるための手続きとして不動産登記があります。不動産登記は、不動産の所有権者が変わった時に所有権移転登記を行なうものです。贈与によって不動産の所有者が変更した場合も、登記を行なうことになります。
なお、所有権移転登記は所轄の法務局に必要な書類を揃えて申請することが可能です。
生前贈与で不動産の名義変更に必要な書類とは?
生前贈与した際の名義変更の登記手続きに必要な書類は以下の通りです。
・所有権移転登記申請書
・贈与契約書
・不動産の登記済証または登記識別情報通知書
・贈与契約書等、所有権移転の原因が贈与だとわかるもの
・贈与者の印鑑証明書(3か月以内のもの)
・受贈者の住民票の写し
・固定資産税評価証明書
・委任状(司法書士などの代理人が申請する場合)
生前贈与で不動産の名義変更にかかる税金は?
生前贈与によって課税される税金は以下の内容で、それぞれご説明します。
・贈与税
・登録免許税
・不動産取得税
贈与税
贈与税は1月1日から12月31日までの1年間(暦年)で行われた贈与の合計額に対して、基礎控除である110万円を差し引いた残額に、贈与税率を乗じて計算される暦年贈与という計算方法があります。親が子どもに贈与する場合に適用される税率は、子が18歳以上であれば特例財産用、18歳未満の子や義理の親から子へ贈与する場合などは一般贈与財産用があり、特例贈与財産用の税率の方が少し低くなっています。
また、暦年贈与以外にも60歳以上の親から、18歳以上の子に贈与した場合に適用できる相続時精算課税制度があり、税率は一律20%ですが、2,500万円の特別控除を引くことが可能です。
登録免許税
不動産の登記名義を、贈与者から受贈者に変えるときに納める税金です。不動産の権利に移転や変更があった場合の不動産の登記手続きに対して、課税されます。
不動産を贈与した場合の税額の計算は、固定資産税評価額 × 2%です。
不動産取得税
土地や建物などの不動産を得たときに生じる税金です。不動産取得税は、不動産の取得に際して、お金を払ったか、払っていないかにかかわらず課税されるため、生前贈与によって不動産を取得した場合であっても不動産取得税を納税する必要があります。
不動産取得税は、取得した土地と建物のそれぞれに課税されます。
税額の計算方法は、固定資産税評価額 × 4%です。
なお、税率ですが、現在、土地と住宅については、特例税率として3%が適用され、また住宅用土地の取得に対しては減額措置が適用される場合もあります。
生前贈与による贈与税を軽減する方法はある?
親子間で不動産を生前贈与した場合に、贈与税を軽減できる次の方法があります。
1、暦年贈与の基礎控除を利用
暦年贈与の計算方法の場合、前述しましたが、1年間の生前贈与の総額から110万円までは贈与税がかかりません。そのため毎年の贈与分が110万円以内となるよう、不動産を分割して生前贈与する方法をとることにより贈与税を減額することができます。
2、相続時精算課税制度を適用
相続時精算課税制度を利用すると、生前贈与された不動産の評価額から最大2,500万円までは特別に控除されます。そのため不動産の評価額が2,500万円以下で相続時精算課税を適用すると贈与税はかかりません。ただし、相続時精算課税は名前のとおり、相続時に精算を行う課税制度です。贈与した親が亡くなり、相続税を計算する際は、その遺産に相続時精算課税を適用した際の不動産を含めて、相続税を計算することになります。
相続時精算課税を適用した不動産の相続税計算時の評価額は、相続時精算課税を適用した際に用いた評価額が採用されます。そのため将来、不動産の評価額の上昇が予想され、相続の際、遺族に多額の相続税がかかる可能性も考えられるでしょう。その場合、土地の評価額が上がらないうちに生前贈与をしておけば、将来土地の評価額が上がっても、相続人は高額な相続税を納めなくても済む場合があります。
なお、税制改正によって2024年1月以降に相続時精算課税制度を適用した場合、これまでの2,500万円の特別控除に加えて、年間110万円の基礎控除が新たに認められるようになりました。これにより、相続時精算課税を適用したとしても年間110万円以内であれば、贈与税は課税されないようになります。
3、特定障害者に不動産を贈与
特定障害者の方の生活費などに充てるため、一定の信託契約に基づいて特定障害者の方を受益者とする財産の信託があったときは、最大6,000万円まで贈与税がかかりません。例えば、父が身体障害者手帳1級の子どもに土地を生前贈与した場合、評価額の6,000万円までの部分に関しては贈与税がかからなくなります。
名義変更しないとどうなる?
生前贈与は当事者間の合意で権利は移転されるため、不動産登記による名義変更も義務ではありません。ただし、不動産登記による名義変更を行なわないと様々な不都合が生じる可能性があります。
例えば、贈与を受けた子どもが贈与された不動産を売却する場合、登記簿に記載された所有者が子どもでない場合、登記簿によって所有権を証明できないため、売却が認められない場合があります。また、不動産の名義を変更しないまま、親が亡くなり、相続が発生した場合、所有者が特定できず、所有権をめぐって相続人同士で争うことになることも考えられるでしょう。
まとめ
親から子どもに不動産を生前贈与する場合に行なう不動産登記は、不動産の権利は自分にある、ということを主張するための大切な手続きです。そのため、必ず行なうようにしましょう。その上で、ご自身の状況に応じた節税方法を選択し、不動産を贈与した場合に課される税金を納めるようにしてください。
【関連リンク】
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●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com)