会社を退職する人にとって、退職後の生活をどうするかということは重要な問題です。会社を辞めた後、すぐに次の職場で働く人もいますが、じっくりと求職活動をしようという人にとって、退職後の収入確保は切実な問題でしょう。そんな時に助けになるのは、雇用保険の失業給付です。実は、この給付は離職した年齢によって大きな差異があることをご存じでしょうか? 

今回は、離職時の年齢による失業給付の違いについて、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
65歳以上でも失業給付はもらえる?
65歳以上の一時金はいくら?
失業給付と年金との関係は?
まとめ

65歳以上でも失業給付はもらえる?

65歳以上の高齢者が、雇用保険に加入できるようになったのは2017年からのことです。この改正により65歳以上の人も失業給付の対象となりましたが、給付の内容は一般保険者とは大きく異なっています。どのような違いがあるのか、失業給付の一つである求職者給付を中心に見ていきましょう。

被保険者の年齢による違いは?

雇用保険の被保険者は、日雇労働者などを除き、年齢によって区分されています。64歳以下の被保険者は一般被保険者、65歳以上は高年齢被保険者ということになります。どちらも被保険者となる要件は同じであり、在職中の給付も大きな違いはありません。育児・介護休業給付、教育訓練給付は、年齢に関係なく受給できる給付です。

例外は、高年齢雇用継続給付ですが、これは60歳から65歳までの期間限定の給付なので、該当する人が限られるのは仕方のないことでしょう。しかしながら、退職するとなると、離職時の年齢が65歳以上であるかどうかによって、失業給付の内容は大きく異なります。

一般に失業手当と呼ばれているのは、64歳以下が対象となる基本手当ですが、これは失業している日に対して一定期間毎月支給される手当です。一方、65歳以上を対象とした高年齢求職者給付金は1回かぎりの一時金となります。

65歳以上だと退職後の給付はどう変わる?

会社を退職後、求職者給付を受給するためには、ハローワークで求職の申し込みをしなければならないのは、一般被保険者でも高年齢被保険者でも違いはありません。7日間の待期期間があることや、自己都合退職だと2か月から3か月の給付制限を受けることも同様です。ただし、その後のスケジュールは変わってきます。

基本手当は、支給開始後も原則28日に1度は、指定された日にハローワークに行って失業の認定を受けなければなりません。支給日数は自己都合の離職の場合は、90日から150日、会社都合の場合は最長330日となります。高年齢求職者給付金は一時金ですので、失業の認定は1度きりです。

さらに、受給期間に関しても、基本手当の場合は原則1年間に加えて最長3年間までの期間延長が可能ですが、高年齢求職者給付金は受給期間の延長はありません。

65歳以上の一時金はいくら?

65歳以上で離職した場合、いくらぐらいもらえるのか、もう少し詳しく見ていきましょう。

高年齢求職者給付金の仕組み

高年齢求職者給付金は、被保険者期間に応じて一定の日数分の給付が、一時金として支給される仕組みです。被保険者であった期間が1年未満の人は30日分、1年以上の人は50日分です。1日当たりの支給額は、基本手当と同じ考え方で計算され、賃金日額の80%から45%となります。賃金日額の高かった人ほど、給付率は低くなります。受給可能な期間は離職日の翌日から1年間で、期間の延長はありません。

定年退職している場合の注意点

ここで注意しなければならないのは、定年退職のケースです。基本手当は定年による離職の場合、本人の申し出により、受給期間を本来の1年間からさらに1年間延長することが可能です。けれども、高年齢求職者給付金は、定年であっても受給期間の延長はできません。

また、手続きするのが遅れて、失業認定から受給期間終了までの期間が短いと、すべての日数分を受給できないこともあります。たとえば、失業認定後の受給可能期間が20日しかないと、20日分の一時金しか受けられません。ハローワークの手続きは早めにするようにしましょう。

失業給付と年金との関係は?

今は高齢になっても仕事を続ける人は多数いますから、働きながら年金を受け取っている人もいると思います。このような人が失業すると、年金の受給はどうなるのでしょうか? 高年齢被保険者が受給できる一時金については、年金との調整はありません。65歳以上の人がもらえる老齢年金は、雇用保険の給付による支給停止はないのです。問題は、64歳以下の一般被保険者が年金を受け取っている場合です。

老齢年金は2種類ある

老齢年金には、国民年金の老齢基礎年金と、事業所に勤めていた人を対象とした老齢厚生年金がありますが、どちらも原則として、65歳から支給開始となっています。けれども、年齢によっては、経過措置として65歳未満の人に支給される特別支給の老齢厚生年金を受け取っている人もいます。特別支給の老齢厚生年金は、基本手当と同時に受け取ることはできません。

ハローワークで求職の申し込みをすると、その翌月から基本手当を受け終わった月までの年金は、全額支給停止になります。給付制限などで基本手当を受けない月があった場合、後に調整されてその月の分の年金は支払われます。

年金を繰上げ受給している場合

それでは、年金を繰上げ受給している人はどうでしょうか? 65歳前に老齢厚生年金を繰り上げて受給している人の場合、基本手当を受けた月の年金は支給停止となります。

ここでのポイントは、支給停止となるのは老齢厚生年金のみだということです。繰上げ支給の老齢基礎年金は調整の対象になりませんので、間違えないようにしましょう。求職の申し込みをしなければ、年金の支給停止はありません。年金を繰り下げるか、失業手当をもらうかということは、悩む人も多い問題です。一般的には、離職前の賃金が高かった人は、年金より基本手当のほうが高額になるケースの方が多く見られます。

まとめ

雇用保険の失業等給付は、離職時に65歳以上であるかどうかによって大きく異なる制度です。就業規則などを確認したうえで、失業給付の金額の比較をして退職時期を考えるのも良いでしょう。ただし、失業給付は求職活動をする人のための給付であり、どうもらえば有利かという視点で考えるべきものではありません。退職後の再就職計画などもよく検討して、賢い選択をしましょう。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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