人手不足の昨今、テレビでもネットでも転職サポート関連のCMが溢れています。転職を考えている人、すでに転職のための活動をしている人もいるのではないでしょうか。ただし、実際に転職するためには、どうしても踏まなければならないステップがあります。

それは、今勤めている会社を退職する手続きです。どのような理由があるにせよ、会社に退職願を出すことは、それなりに緊張するものでしょう。それでもなんとか退職の意思を伝えて承諾してもらえば、あとは事務手続きだけなので少しは気が楽になると思います。しかしながら、退職手続きがすんなりいくとはかぎりません。

今回は、会社が雇用保険の資格喪失手続きをしてくれない事例について、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
会社が喪失手続きをしてくれない! 事例を紹介
会社が手続きをしてくれない時の相談先
まとめ

会社が喪失手続きをしてくれない! 事例を紹介

会社を辞める時には、健康保険、厚生年金保険の資格喪失届のほかに、雇用保険の資格喪失届を提出することになります。さらに雇用保険では、希望者には離職票が交付されます。退職後に失業保険をもらいながら求職活動をする予定の人は、ハローワークに離職票を提出して失業の認定を受けなければなりません。

もしも、会社が資格喪失の手続きをしてくれなかったらどうなるのでしょうか? その場合は、会社を辞めてもハローワークに離職票を提出することができないので、当然失業手当はもらえません。さらに困ることに次の会社に就職しても資格取得の手続きができないことになります。

これが、会社が単に忙しいなどの理由で手続きが遅れているなら、催促して手続きを進めてもらうことはできるでしょう。催促しても会社がなかなか雇用保険の資格喪失をしてくれない場合、考えられる理由は二つあります。

一つ目は、退職を思いとどまらせたいなどの理由で意図的に手続きしないケース、二つ目は会社が雇用保険の手続き上で何らかの問題を抱えているケースです。この二つ目のケースについて、いくつかの具体的な事例を紹介します。

1.雇用保険の資格取得を忘れていた

雇用保険の加入要件は、労働時間が週20時間以上であること、31日以上雇用される見込みがあることです。要件を満たす社員が入社したら、会社は翌月10日までに資格取得の手続きをしなければなりません。けれども、担当者が手続きを忘れてそのままになっていたということは、実際にあります。

こうしたミスは、社員が退職するときに発覚することが多いものですが、担当者が焦ってしまって手続きを先送りにしていることもあります。雇用保険はさかのぼって加入することができます。手続きが遅い場合は、担当者に確認しましょう。

2.会社が労働保険の支払いを滞納している

会社によっては、労働保険料を滞納しているということもあります。もちろん、労働基準監督署からの督促は来ますが、それでも支払いが遅れていたりすると、ハローワークなどへの接触を避けていることが考えられます。

3.会社が適用事業所になっていない

ごく一部の事業を除いて、一人でも労働者を雇用している事業は原則として雇用保険の適用事業所になります。しかしながら、届出を怠って適用を受けていないという会社も現実に存在します。これは、給与明細を見ると雇用保険料が控除されていないことで気づくことができます。なかには、給与明細では雇用保険料が記載されているにもかかわらず、実際は適用事業所ではなかったという事例もあります。

こういう会社は労災保険の加入もしていないことが多いので、注意が必要です。社会保険、労働保険の適用の有無については入社時にしっかりと確認しましょう。

4.離職票の離職理由が問題となっている

離職票の交付を受けないと、失業手当を受給することができません。離職票には、具体的な離職理由を記載する欄がありますが、この理由は退職する本人も承認したものでなければなりません。自己都合の退職ではなく、会社の退職勧奨や労働条件が契約と相違しているなどの理由で辞めた場合、会社都合の離職ということになります。

けれども、離職理由を会社都合とすることを嫌がる会社もあります。会社が助成金などを申請していた場合、解雇や会社都合の退職者がいると不利になるからです。このように離職理由が定まらず、手続きが遅れてしまうケースもあります。

会社が手続きをしてくれない時の相談先

会社が雇用保険の喪失続きをしてくれない時は、どうしたらいいでしょうか。早めに手続きをしてもらうよう、会社にお願いすることになりますが、それでも手続きが進まないと困ってしまいますね。この場合、どこに相談したらいいでしょうか?

基本的に雇用保険の手続き関係はハローワークが相談窓口となっています。自身の資格取得が適正になされているかどうかの照会をすることができますので、雇用保険の加入手続きがなされていなかった場合は、ハローワークに相談しましょう。さかのぼって資格取得する手続きなどを会社に指導してくれます。

離職理由が異なっているときなども、ハローワークが会社に確認してくれます。ただし、退職に際して会社ともめている時は、ハローワークだけでは解決しきれない問題も出てきます。なるべく円満に辞めたいと考えるなら、就業規則を確認し、ルールに従って退職しましょう。引き継ぎなどもきちんとしておくことが大切です。

それでもなかなか円満退職とはいかないケースもあると思います。退職の原因がパワハラや過度の残業などが原因であるときは、できるだけその証拠となるものを集めておきましょう。労働基準監督署の総合労働相談コーナーなどに相談することも良い案です。しかしながら、会社との話し合いでどうしても解決に至らない場合は、弁護士に相談するなどして、法的解決を図ることがやむをえない場合もあります。

まとめ

会社を辞める時は、退職に至るまでの手続きというハードルを越えなければなりません。一連の手続きをスムーズに進めてもらうには、早いうちに準備しておく必要があります。就業規則などもしっかり確認し、退職の意思はなるべく早めに会社に伝えましょう。健康保険、年金、税金、そして雇用保険の失業給付などについてもあらかじめ調べておくと安心です。正しい知識を身に着け、余裕を持って次のステージに進みたいものです。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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