老後の生活資金として貴重な年金ですが、その年金を受け取らないうちに亡くなった場合、どうなるのでしょうか? 残された遺族が受け取れる年金は何があるのか、必要な手続きがあるのか疑問に思う方は多いでしょう。
そこで、今回は日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た知識や経験に基づき、年金受給前に亡くなった場合の年金の取り扱いについてご説明いたします。
目次
年金受給前に死亡した場合はどうなる?
年金受給前に死亡したとき、行なう手続きは?
年金受給前に死亡したら、遺族が受給することは可能?
年金受給中に死亡したらどうなる?
まとめ
年金受給前に死亡した場合はどうなる?
年金を受け取る前に亡くなった場合でも、亡くなった方の年金の加入実績等に応じて、残された遺族は国民年金や厚生年金から、一定の年金や一時金を受けることができます。ただし、受給要件や必要な手続き等があるため注意が必要です。
また、死亡日による国民年金資格喪失日(死亡日の翌日)の属する月以降分の、国民年金保険料をすでに納付していたときは原則還付されます。
年金受給前に死亡したら、遺族が受給することは可能?
年金受給前に死亡した場合、遺族は下記の年金を受け取ることが可能です。
1:遺族年金
遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があり、以下の受給資格要件等があります。
(1)遺族基礎年金
1.国民年金の被保険者である間に死亡したとき
2.日本国内に住所を持つ国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方が死亡したとき
3.老齢基礎年金の受給資格期間が25年以上ある方が死亡したとき
(2)遺族厚生年金
1.厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき
2.厚生年金保険の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で、初診日から5年以内に死亡したとき
3.1級もしくは2級の障害厚生(共済)年金を受け取っている方が死亡したとき
4.老齢厚生年金の受給権者または保険料納付済期間と、保険料免除期間の合計期間が25年以上ある方が死亡したとき
なお、受け取ることができる遺族基礎年金額は令和6年度現在で「81万6,000円 + 子の加算」です。子の加算は「第1子および第2子は23万4,800円」「第3子以降は各7万8,300円」になります。子とは18歳になった年度の3月31日までにある方をいいます(障害年金の障害等級1級または2級の方は、20歳未満)。
遺族厚生年金額は、亡くなられた方の厚生年金の加入期間や報酬の額を基に計算され、「亡くなられた方の報酬比例部分 × 4分の3」になります。
2:寡婦年金
国民年金の第1号被保険者として保険料を納めた期間(免除期間を含む)が、10年以上ある夫が亡くなったときに、その夫と10年以上継続して婚姻関係があり、夫によって生計が維持されていた妻に対して支給される年金です。
支給期間は、夫の死亡日(死亡日に妻が60歳未満の場合は60歳に達した日)の翌月から、65歳になるまで、もしくは死亡、婚姻するまでの間支給されます。年金額は夫の死亡日前月までの第1号被保険者期間について、老齢基礎年金の計算方法により、計算した額の4分の3です(夫が受給できたであろう老齢基礎年金額の4分の3)。
なお、寡婦年金は、夫が老齢基礎年金・障害基礎年金を受給していた場合に支給されるものです。すでに夫が年金を受給している場合は支給されません。また、妻が繰り上げで老齢基礎年金を受けている場合も支給は行なわれません。
3:死亡一時金
国民年金の第1号被保険者として保険料を納めた月数が36か月以上ある方が、老齢基礎年金や障害基礎年金を受けないまま死亡したとき、生計を同じくしていた遺族に支給されます。
支給金額は12万円から32万円となっており、保険料を支払っていた期間によって異なります。付加保険料を36か月以上支払っている場合は、8,500円が加算されます。死亡一時金を受けとれる遺族には優先順位があり、「1.配偶者」「2.子」「3.父母」「4.孫」「5.祖父母」「6.兄弟姉妹」の中で優先順位の高い人が受け取ることが可能です。
なお、死亡一時金は遺族が遺族基礎年金を受け取る場合は受けることはできません。また、寡婦年金と同時に支給することはできず、寡婦年金か死亡一時金か、どちらか1つを選ぶ必要があります。死亡一時金には時効があり、死亡日の翌日から2年間なので注意しましょう。
年金受給前に死亡したときに行なう手続きは?
遺族基礎年金は「年金請求書(国民年金遺族基礎年金)」を住所地の市区町村役場に添付資料を添えて提出します。(死亡日が第3号被保険者の期間中の場合は、お近くの年金事務所または街角の年金相談センターに提出)
遺族厚生年金は「年金請求書(国民年金・厚生年金保険遺族給付)」を、お近くの年金事務所または街角の年金相談センターに添付資料を添えて提出します。
寡婦年金は「年金請求書(国民年金寡婦年金)」を死亡一時金は「国民年金死亡一時金請求書」を住所地の市区町村役場に添付資料を添えて提出しますが、お近くの年金事務所または街角の年金相談センターでも手続きできます。
なお、遺族年金、寡婦年金、死亡一時金には以下の添付書類の提出が必要です。
- 年金手帳(基礎年金番号が記載しているもの)
- 戸籍謄本
- 世帯全員の住民票の写し
- 死亡者の住民票の除票
- 受取先金融機関の通帳等
上記の添付書類に加え遺族基礎年金及び遺族厚生年金の請求には「請求者の収入及び子の収入が確認できる書類」、「市区町村長に提出した死亡診断書(死体検案書等)のコピー等」が、寡婦年金は「請求者の収入が確認できる書類」、年金証書(公的年金から年金を受けているとき)を添付することになります。
ただし、死亡の原因が第三者行為の場合、その他状況によって必要な書類があります。また、マイナンバーを記入いただく場合は、省略できる書類もありますので、詳しくは年金事務所に問い合わせることをお勧めします。
年金受給中に死亡したらどうなる?
年金を受給中に亡くなった場合、年金を受ける権利がなくなるため、「受給権者死亡届(報告書)」の提出をすることになります。ただし、年金受給権者の死亡届は、日本年金機構にマイナンバーが収録されている方につきましては、原則不要です。
死亡届が必要な場合は、10日(国民年金は14日)以内に年金事務所または年金相談センターに、死亡年月日、年金証書に記載されている基礎年金番号と年金コード、生年月日などを記入し、亡くなった方の年金証書と、死亡を明らかにすることができる書類(戸籍抄本または住民票の除票など)を添えて提出します。届出が遅れ、亡くなった日の翌日以後に年金を受け取った場合は、その分を後日返金することになるので注意が必要です。
年金受給中に亡くなった場合も一定の要件を満たせば、遺族は遺族年金等を受け取ることができます。死亡した月分までの年金についてまだ受け取っていない場合、その方と生計を同じくしていた遺族は「未支給年金」を受け取ることが可能です。
「未支給年金請求書」に、亡くなった方の年金証書に記載されている基礎年金番号と年金コード、生年月日、死亡年月日などを記入して、続柄が分かる書類(戸籍抄本など)及び生計を同じくしていたことがわかる書類(住民票など※)、請求者の預金通帳を添えて、お近くの年金事務所または街角の年金相談センターに請求してください。
なお、未支給年金を受け取ることのできる遺族の順位は決まっており、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、その他3親等内の親族の順です。
まとめ
年金を受け取る前に、万が一亡くなった場合も、残された家族は死亡一時金や遺族年金、寡婦年金などの形でお金を受け取ることが可能です。ただし、年金受給前に死亡したら遺族がいずれも受給要件を満たす必要があります。給付の内容、請求先などは、年金の加入状況や亡くなった方と遺族との関係性などによって異なるため、管轄の年金事務所へ確認していただき、漏れなく受け取れるようにすることをお勧めします。
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com)